史上最多のメダルでも内閣支持率は下がるばかり

菅首相は広島の平和式典であいさつ文の1ページ分(「わが国は核兵器の非人道性をどの国よりもよく理解する唯一の戦争被爆国」など)を読み飛ばした。記者会見で「この場をお借りしておわび申し上げる」と陳謝したが、読み飛ばしたのは最重要の箇所だった。思い起こすと、昨年10月の国会での所信表明や今年1月の施政方針演説でも言い間違いをしている。

菅首相は東京五輪を成功させ、それをバネに秋の自民党総裁選と衆院総選挙を乗り越え、再び首相の座に就くことを狙っている。つまり五輪を政治に利用したのだ。自分の欲望のためにオリンピックを利用したのである。そんな首相に日本の舵を取ることを任せるわけにはいかない

多くの国民は菅首相の思惑と打算に気付いている。それが証拠に、日本勢の史上最多のメダルラッシュにもかかわらず、菅内閣の支持率は下がるばかりだ。8月上旬のNHKの世論調査では、菅内閣を「支持する」と答えた人は7月より4ポイント下がった29%で、昨年9月の内閣発足以降最低を更新している。「支持しない」は6ポイント上昇した52%で、過去もっとも高い。

新型コロナの全国の新規感染者数は連日1万人を超え、感染拡大に歯止めが掛からず、医療の崩壊が懸念されている。与党議員からは「これでは衆院選は戦えない。菅首相では選挙の顔にならない」との声が強く出ている。

新型コロナ患者に挿管する医療従事者
写真=iStock.com/Tempura
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「国民の健康を『賭け』の対象にすることは許されない」

前述した朝日社説は序盤で「朝日新聞の社説は5月、今夏の開催中止を菅首相に求めた」と書き、その理由をこう記す。

「努力してきた選手や関係者を思えば忍びない。万全の注意を払えば大会自体は大過なく運営できるかもしれない。だが国民の健康を『賭け』の対象にすることは許されない。コロナ禍は貧しい国により大きな打撃を与えた。スポーツの土台である公平公正が揺らいでおり、このまま開催することは理にかなわない。そう考えたからだ」

東京五輪開催の是非があるなかで、朝日社説は菅首相が国民の健康を賭けの対象にしてオリンピック開催を強行したと強調する。

続けて朝日社説は「五輪参加者から感染が広がったわけではないなどとして、首相や小池百合子都知事、そして国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長らは判断の誤りを認めない。しかし、市民に行動抑制や営業の自粛を求める一方で、世界から人を招いて巨大イベントを開くという矛盾した行いが、現下の危機と無縁であるはずがない」とも指摘する。

その通りだ。国民に自粛を強く求めながら、世界最大の祭典の開催を押し切る。どう考えても世界で感染が広まっているパンデミック下での開催は尋常ではない。