ミャンマー国軍がクーデターによって全権掌握してから約5カ月。国軍支配がいっそう強化されるミャンマー情勢について「すでに内戦は始まっている」と地政学者の奥山真司氏は語る。国軍がクーデターを起こした背景やミャンマーを巡る周辺国の思惑、そして日本としてはどうするべきなのか、地政学的観点から解説してもらった——。
2021年3月16日、ミャンマー・ヤンゴンで行われた軍事クーデターへの抗議デモが弾圧されている。デモ参加者がガソリン爆弾を投げ、他のデモ参加者は手作りの盾の後ろに隠れて警察と対峙している。
写真=AFP/時事通信フォト
2021年3月16日、ミャンマー・ヤンゴンで行われた軍事クーデターへの抗議デモが弾圧されている。デモ参加者がガソリン爆弾を投げ、他のデモ参加者は手作りの盾の後ろに隠れて警察と対峙している。

ミャンマーは3層構造の国

今回のミャンマー問題を理解するとき、まずおさえておきたいのは、もともとミャンマーという国自体が3層構造になっているということです。

クーデターを起こした国軍は、第2次世界大戦後から強大な力を持ち、少数民族を弾圧してきました。ミャンマーは多民族国家ですが、ビルマ族は7割、3割が少数民族です。1980年代後半からは、こうした軍事独裁政権に対する民主化運動が高まり、1990年の総選挙ではアウン・サン・スー・チー氏率いる野党「国民民主連盟(NDL)」が圧勝しましたが、軍事政権は継続。その後2000年代に入っても、軍事政権は続きましたが、2015年の選挙でNDLが勝利し、ようやくスー・チー氏主導の政権交代が実現しました。その中にあって国軍は少数民族への弾圧を続けていましたが、スー・チー氏はそれを止めることはできませんでした。そして2020年11月の総選挙でもNDLが勝利。この結果に対して、国軍は今回のクーデターを実行したわけです。

こうした経緯を踏まえると、3層構造の一番上の層には国軍がいることが、理解できるでしょう。政治と経済を回しているのはビルマ族。中間層は、愛国的なビルマ族ですが、民主化を選びたいというスー・チー氏を代表する民主化勢力は、西洋のように議会政治をやっていきたいと考えている人たちです。クーデター後にはNLD議員らは「連邦議会代表委員会(CRPH)」を設置しています。その2つの層の下に、カチン族やカレン族といった少数民族がいます。国軍による大虐殺が国際的な大問題となったロヒンギャもそのひとつです。ミャンマーはこういった3層構造に分かれているのです。

ここ数年はスー・チー氏と国軍が共同経営をしてきましたが、今回のクーデターによって国軍が政治の全権を握り、スー・チー氏の民主政権の部分を排除してしまった。そこで今度はスー・チー氏の民主化勢力が少数民族に近づき、この二つの勢力でタッグを組んで、国軍をなんとかしようという状況になっています。

今回の国軍の政権掌握について、一般的にはクーデターといわれていますが、厳密にはクーデターではありません。クーデターというのは、上にいる人をスパッと抜いて入れ替わること。今回の場合は、もともと国軍に政権があったところに、スー・チー氏らの民主化勢力がきたわけですから、国軍は政権を取り戻そうということをやりました。これを軍政復活という意味で“プロヌンシアミエント”といいます。