「国際情勢は猿山と同じ」と話すのは地政学者の奥山真司氏。アメリカでトランプ政権から続く中国への対抗路線は、バイデン政権になってどう変わったのか、また、日本の立ち位置に変化はあったのだろうか——。
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アメリカの対中政策はより強硬に

プレジデント ウーマン」2020年秋号で奥山真司氏は、「国際情勢は猿山と同じ。パワーの強いボス猿にナンバー2の若頭がかみついては蹴落とされています。現在のボス猿はアメリカで若頭は中国だが、リーマン・ショック後、ボス猿は若頭にその地位をおびやかされています」と教えてくれた。

その後、ボス猿の地位を守り続けているアメリカは、強硬派だったトランプからバイデン政権へと移った。若頭である中国に対するアメリカの政策はどう変わっているのか。

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アメリカの対中政策はバイデン政権になって、より厳しく、そしてより組織的になりました。バイデン政権が誕生したときは、識者の間では「民主党だし、これからはお手柔らかに行くのではないか」「気候変動やSDGsなども踏まえて、是々非々でやって行くのでは?」という見方が強かったわけですが、いざ蓋を開けてみると、予想以上に中国に対して強硬姿勢で対応しています。これはちょっと驚きでしたが、一番驚いていたのは当の中国自身だったのではないでしょうか。

具体的には「ジオエコノミクス」の戦略が始まったこと。ジオエコノミクスとは、経済を武器に地政学的な問題を解決しようという「地経学」のことです。また経済の「デカップリング」に対しても、アメリカはやる気を見せています。デカップリングというのは、二つが連動している「カップル」の反対で、「離れる」という意味です。つまり、ここで経済的に中国を引き離して競争に勝ちたい。バイデン政権は経済力で中国に戦いを挑む方向で進んでいるのです。

また人権や価値観といったことに、大きくフォーカスしているのもバイデン政権の特徴です。中国による新疆ウイグル自治区のウイグル人への人権弾圧を「ジェノサイド」と認定し、強く批判しています。

というのは、バイデン政権の閣僚にはユダヤ系が多く、特に国務長官のアントニー・ブリンケン氏は、過去に身内がナチスドイツに迫害されたというユダヤ系なので、ことさらに人権やジェノサイドに敏感であることは間違いありません。個人の心情がどこまで伝わるかわかりませんが、ブリンケン氏のような人権派がいると、バイデン政権としても、そこは無視できない動きになってくるでしょう。

この人権弾圧はアメリカだけでなく、欧州連合(EU)の対中関係も悪化させています。2020年末、EUは中国と投資協定を結ぶことで、大筋合意したにもかかわらず、この人権弾圧が足かせとなって批准に至っていないのです。世界的に見ても、中国の人権や価値観に対する問題は、スムーズな経済関係を止めているといえます。

とにかく民主主義と権威主義の対立が強まっていることが、トランプ政権から変わらなかった点というより、むしろ予想外に大きく変わった点でしょうね。

米中のはざまで日本はどう振る舞うべき?

現在の日本は、ビジネスは中国、安全保障はアメリカと、米中のはざまでそれぞれに依存していますので、その中間でうまくやっていくしかありません。

アメリカやヨーロッパが人権、価値観と言っているところに、ユニクロの柳井正会長兼社長は「政治的に中立」とコメントを控えましたが、日本としては、もうそうするしかない。

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「人権に配慮します」といった瞬間に、中国で排除されたH&Mの例もあります。日本がそうなると非常につらい。だから頭を隠した「ダック」という状態で、噂が収まるのをやり過ごすしかないでしょう。

一方で、日本がますます経済的に中国に寄る流れもあります。楽天が中国のテンセント系の会社から出資を受ける、メルカリがアリババグループの会社と連携する、といったことは象徴的な出来事ですね。

こういった日本の状況に対して、アメリカは「もうちょっと中国と離れろよ」とけしかけてくるでしょう。そこで日本政府は、アメリカに見逃してもらうのか、マーケットをインドや東南アジアに求めていくのか、その決断をここ2~3年のうちに迫られるでしょう。

そのときに日本国内の世論は必ず沸騰するはず。1960年代の学生運動のようなことが起きることが予想されて、僕としては心が重いのですが……。日本政府がしっかりと守ってくれることを望むばかりです。