2021年8月、約20年の米軍アフガニスタン駐留を終結させたバイデン政権。タリバン政権の復権を許したことで米国内外から批判が高まっている。地政学者で戦略学者の奥山真司氏は「アメリカにはプラスだけど、バイデン政権にはピンチ」だという――。
損切りで国力を温存できる!?
米軍のアフガニスタン撤退については、さまざまな意見がありますが、僕の今のスタンスは「アメリカにとってはプラス、バイデン政権にとってはピンチ」です。
なぜアメリカにはプラスなのか。そこから説明していきましょう。
そもそもアメリカのアフガニスタン侵攻のきっかけとなったのは2001年に起きた9.11米同時テロ。ニューヨークにあるワールドトレードセンターのツインタワービルに飛行機が衝突する映像は、記憶に残っている人も多いでしょう。僕は当時、カナダの大学に留学していましたが、そのときのアメリカ人の怒りはすさまじいものでした。
当時のブッシュ米大統領は、すぐに首謀者を国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンと断定し、彼をかくまうアフガニスタンのタリバン政権に身柄の引き渡しを要求しました。しかし、タリバン政権が要求にこたえなかったことから、米英両軍はアフガニスタン空爆を開始。反タリバン勢力の「北部同盟」と結びつき、アフガニスタンの首都・カブールを制圧しました。
2009年、米軍はウサマ・ビンラディンを殺害しましたが、その後も、ここがテロの温床になってはいけないと支配し続けました。しかし、それから約20年、アメリカがやってきたことは無駄だったということが、今回明らかになったわけです。
アメリカが投じた軍事費は、公式には220兆円といわれていますが、実際は800兆円(米国ブラウン大学の研究チームによる報告)にものぼると言われています。これだけ投じてテロ掃討戦をやろうとして負けたわけですが、僕はこのアメリカの「負け」に関して、ポジティブにとらえています。バイデン政権がこれ以上損を出さない“損切り”をしたことで、アメリカは国力を温存できたからです。