世界一「稼いでいる」女性アスリート

古代ローマの社会がそうであったように、剣闘士が闘う姿に民衆は釘付けになり、熱狂し、日々の鬱憤を発散させる。見世物、興業として金を生み、政治的なプロパガンダの場となる。スポーツマンシップなるものは「純粋」だ、だからスポーツに政治を持ち込むなという不思議なものいいがあるようだが、それは歴史というもの、あるいは人間そのものの理解がちょっと不足している。スポーツそのものは政治的ではないが、勝敗がありランキングを決めるスポーツの大会とは勝者がいて敗者がいる限りいつも実に政治的なものであり、時に誰かの何かの代理戦争の場である。

2018年のUSオープン決勝で審判への激昂を隠さないセリーナ・ウィリアムズに勝利したとき、大坂なおみは「攻撃的でなく、抑制的でおとなしく、テニスという競技の品位を守れる、新たなチャンピオン」と認識された。2020年、コロナ禍で世界中が外出を控えメディアに釘付けになる中、多くの人にとっては“画面の中のアメリカ”で起こったBLM運動に「黒人女性として」共感を寄せ、世界中の視聴者が関心を寄せるテニス四大大会で個人としての意見、姿勢を表明した。

今年23歳の大坂なおみは、さまざまな価値観や利害が複雑に絡み合う多様性社会のオピニオンリーダーに選ばれ、日清食品やナイキやルイ・ヴィトン、スィートグリーン(サラダレストランチェーン)など、若者に訴求するアパレルやライフスタイルブランドのイメージを代表するようになったのだ。いま、大坂なおみは世界で最も「稼いでいる」女性アスリートである。

テニスラケットとボール
写真=iStock.com/luckyraccoon
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誰もが喜んで会見に臨めるわけではない

人前でちゃんと言葉にして発言してナンボ、の文化では、記者会見の拒否やうつ病理由の大会棄権は敵前逃亡くらいに受け取る人々もいる。言語コミュニケーション社会であるアメリカのニュース番組では「試合後の記者会見までを含めてテニスプレイヤーなのだ」と忠告する、本人も元テニスプレイヤーのコメンテーターもいた。

だが、罰金を払えるほどに「稼いでいる」選手の中には、罰金を払えば記者会見に出なくていいとばかりに振る舞う選手もいるのだから、記者会見がストレスのかかる場であることは一般人の私たちにだってわかる。勝っても負けても記者会見、誰もが喜んであの場に出る精神状態にあるわけではない。