「状態を客観的に認識して、意識をそらす」

このとき、その状態について「いい」「悪い」の評価はしないでください。何なら自分を三人称に置き換えて、「ああ、彼は今ネガティブだな~」という状態をそのまま描写して、思考をさっと別のほうに持っていく習慣をつけていきます。

三人称で心の中を語ったときには、感情に関する脳の部位の活動が急激に低下することをモーザーらは別の研究で観察しています。

ネガティブな感情を気にしたり、「これはよくない!」と否定したりしてしまうと、よけいに強調されます。そうではなく、「状態を客観的に認識して、意識をそらす」ことが本当のポジティブシンキングの第一歩なのです。

その意味では、態度をポジティブにするというのは、「思考から行動をポジティブにしていく」のではありません。行動をポジティブにすることで、結果的に思考がポジティブになるのです。

いったいどういうことか? そのメカニズムについて引き続き見ていきましょう。

「ポジティブな態度」を習慣化する

不安が強い状態のとき、人は思考も感情もネガティブになりやすくなります。

ただこれまでで紹介したように、これを無理やりポジティブ思考にしようとしても自己矛盾に陥って、かえってネガティブな方向に進んでしまう可能性があるのです。

「何事も考え方だぞ!」と自分をふるい立たせて思考を変えようといってもなかなか難しいのです。

しかしながら、心の内側からではなく、外側から思考を変えていくことができます。近年の脳科学では、感情は思考(考え方)よりも、身体の動きなど外的な要因から大きな影響を受けることがわかっているのです。

つまり、「ポジティブな態度」を習慣化することで、思考や感情をポジティブな方向に持っていく方法があります。

笑顔をつくると脳が「楽しい」「嬉しい」という錯覚を起こす

たとえば、こんな実験があります。カンザス大学のクラフトとプレスマンは学生を対象にストレスと表情に関する実験を行いました。

この実験では、参加者を3つのグループに分けます。

①「無表情のグループ」
②「箸をくわえて、口角が上がる(「イー」の形)ようにしたグループ」
③「箸を横にくわえて、大きな笑顔をつくるグループ」

そのうえで、すべてのグループの参加者にストレスを感じてもらうようにします。氷水に1分間手を入れる、鏡に映った対象物の動きを利き手ではないほうの手で追うといった作業をさせ、参加者たちの心拍数を計測したり、ストレスのレベルを自己申告で評価してもらったのです。

この結果、①の笑っていないグループと比較して、②のグループと③のグループは作業中のストレスが少ないことがわかったのです。特に③の大きな笑顔のグループは作業中の心拍数も低いという結果になりました。