ロシアには「民主主義を攻撃」と強気だが…

まず、バイデン大統領は、欧州との関係修復の意思を明確に表し、欧州勢を安堵させた。「一国が攻められることは、皆が攻められることだ」として、集団的自衛権を再確認。そして、中国に関しては、「もうわれわれは、世界を分断させかねないような国家間の競争に没頭しているわけにはいかない」と西側の団結を促し、一方のロシアに関しても、「汚職を武器としつつ、民主主義を攻撃してくるクレムリン」とか、「プーチンはヨーロッパの計画やNATOを弱体化させようとしている」などと語気を強めて非難した。

オンラインで開かれた「ミュンヘン安全保障会議」の代替会議にホワイトハウスから参加し、演説するバイデン米大統領
写真=EPA/時事通信フォト
オンラインで開かれた「ミュンヘン安全保障会議」の代替会議にホワイトハウスから参加し、演説するバイデン米大統領=2021年2月19日、アメリカ・ワシントン

ただ、私が大いに違和感を持ったのは、ロシアのことは「プーチン」「クレムリン」と名指しにして、「ウクライナはヨーロッパと米国の懸案」と強く非難したのに対し、中国については「習近平」も「中国共産党」もなしで、香港にも台湾にも新疆ウイグル自治区にも一切触れなかったこと。バイデン大統領の対中本気度は、よく分からない。

一番の懸案である「対中」を見事なまでにスルー

ともあれ、講演の最大のテーマは「民主主義」。バイデン大統領は、現在、民主主義と専制主義がせめぎ合っており、われわれは重大な岐路に立っていると強調。つまり、「われわれはこの変容してしまった世界において、民主主義こそが国民の求めていることを達成できるシステムだということを示さねばならない」と、おそらくこの辺りが彼のスピーチの核心だったろう(バイデン大統領は、中国やロシアの政治を表すのにAutocracyという言葉を使ったので、「独裁」と訳さず、「専制」にした)。

また、バイデン大統領はパリ協定への復帰にも言及し、「4年間、欧州が気候温暖化防止のリーダーシップをとってくれたことに感謝している」と、ここでもAmerica is backを強調。イラン核合意への復帰についても同様で、早い話、トランプ前大統領のしてきたことをバイデン大統領が一つひとつ潰し、それに皆が拍手という図だった。

ただ、欧州勢が喜ぶことはたくさん並べたバイデン大統領だが、現在、米国と欧州の間に横たわっている問題は、見事なまでにスルーした。ロシアとドイツの間の海底ガスパイプライン、ノード・ストリーム2の行方(これについては、前回記事で詳述)、NATOの防衛費問題、関税戦争の行方など、何も出てこない。また、本来、彼が一番の懸案として扱っているはずの対中政策も、結局は、民主主義の理念をこね回しただけだったように、私の目には映った。