「フェイク基金」の90%はロシアの国営企業が負担

旧東独のメクレンブルク-フォーポメルンは、ドイツ北部のバルト海に面した州だ。1月8日、そこのマヌエラ・シュヴェズィヒ州首相(SPD=ドイツ社会民主党)が、「気候、環境保護のための基金・MV」を設立したと発表した。MVというのは、メクレンブルク-フォーポメルン州の頭文字。環境と自然と気候の保護を目的とした州立の基金だそうだ。

しかし、発表された途端、これは「フェイク基金」だとして一斉攻撃が始まった。

実は、同基金の資金の90%は、ロシアの国営企業であるガスプロム社が負担しているという。つまりこの基金は、米国の制裁により敷設が止まって3年余、暗礁に乗り上げているロシア~ドイツ間の2本目の海底パイプラインを完成させるためのダミー基金だとみられている。

トリックはこうだ。2本目の海底パイプライン「Nord Stream 2」(以下、ノート・ストリーム2)の敷設は「Nord Stream 2 株式会社」(以下、ノート2社)の手で進められている。このノート2社は100%ガスプロム社の所有だ。アメリカの制裁は、ノート2社と受注契約を結んだ企業が対象となる。そのため、現在、出資するはずだったヨーロッパの会社もすべて降りている。

ドイツ北東部・ルブミン(Lubmin)にある「ノート・ストリーム2」のガス揚陸ステーション。ルブミンには旧東ドイツに6基あった原子炉のうち5基があり、現在も廃炉作業が続いている。
写真=dpa/時事通信フォト
ドイツ北東部・ルブミン(Lubmin)にある「ノート・ストリーム2」のガス揚陸ステーション。ルブミンには旧東ドイツに6基あった原子炉のうち5基があり、現在も廃炉作業が続いている。

しかし、政府や公的機関は制裁の対象ではない。そこで、ノート・ストリーム2の敷設に従事する企業は、ノート2社ではなく同基金と契約を結べば制裁の対象にはならないで済むという理屈らしい。

ただ、どれだけの企業がこのトリックに乗ってくるかは今のところ不明だ。

全長1220kmのうち、未完は160km

ノート・ストリーム2の建設が止まってしまって、すでに3年余りがたつ。1本目のノート・ストリームは2011年に完成し、以来、ドイツ経由で、年間580億立方メートル超という大量のロシア天然ガスがヨーロッパに送られている。ノート・ストリーム2が予定通り2019年に完成していれば、輸入量は文字通り倍増したはずだった。

ロシアとドイツの間のバルト海ガスパイプラインの地図
写真=iStock.com/Rainer Lesniewski
ガスパイプラインのルート図

しかし、米国が、このプロジェクトに関わった会社に制裁を加えると決めた途端、ほとんどの企業が降りてしまった。そして、全長1220キロメートルのうち、ドイツの近くの最後の160キロメートルほどの区間が未完成のまま残った。

海底パイプラインの敷設は、誰もができるわけではないという事情もあり、施工中だったスイスの会社が退いた後、後継の会社が見つからなかった。そこでロシアが自力でやることになり、昨年2月、日本海沿岸のナホトカ港に停泊中だったパイプライン敷設作業の特殊船「アカデミック・チェルスキー号」が急いでバルト海に呼び戻され、その後、ドイツのリューゲン島の港で改造中という話が、漏れ伝わってきていた。