何が何でも敷設を進めたいドイツとロシアの事情

ドイツ国内でも、カーボン・ニュートラルに向かう今、「ガスなど要らない」、「再エネをもっと増やせ」、あるいは「海洋の生態を破壊するな」という声が上がっている。また、ロシアの野党指導者ナワルニイ氏の暗殺未遂事件の際、ロシア政府をあそこまで大声で批判したのだから、そのロシアに膨大な利益をもたらすノート・ストリーム2にこれ以上こだわってはドイツの国際的な信用が失墜するという懸念も膨らんでいた。

そうこうするうちに2020年12月の初め、前述のロシアの特殊船「アカデミック・チェルスキー号」が改造を終えたというニュースが流れた。いったいこの先どうなるのかと皆が固唾をのんでいたところ、その答えが冒頭の「フェイク基金」設立だった。

要するに、ロシア政府もドイツ政府も、何が何でもこのパイプラインプロジェクトを進めたい。すでに80億ユーロも費やしているし、残りも160キロメートルと、あと、もう一歩で完成なのだから、その気持ちはわからないでもない。

海岸近くのパイプ敷設バージクレーンでパイプの敷設
写真=iStock.com/Leonid Eremeychuk
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特に、他に大した産業のないロシアにとって、ガスの輸出は貴重な収入源のみならず、安全保障上の戦略的手段でもある。

脱原発の完遂後に迫りくるドイツ電力不足の危機

しかし、実はノート・ストリーム2は、ドイツにとっても極めて重要な意味を持つ。というのも、今年3基、そして、来年残り3基の原発が止まれば、脱原発は予定通り完遂されるが、その代わり、電力不足になる危険があるからだ。それを防ぐため、ドイツでは現在、複数のガス火力発電所が増設されている。ドイツのようなハイテク産業国にとって、電力不足は間違いなく致命傷だ。「気候、環境保護のための基金・MV」の設立は、その切迫感を余りなく示していると言える。

ただ、国民は、電力供給が危うくなる可能性など、しかとは知らされていないから、「CO2を削減するのに、なぜガスの輸入を増やさなければならないのか」といぶかしがるばかり。また、「気候、環境保護のための基金・MV」をフェイク基金と攻撃する人たちも、その影にある根本的な問題には、知っていても、触れようとしない。そして、ひたすら化石燃料を悪者に仕立てて終わりだ。