バイデン・フィーバーの今年は異例の顔ぶれに

今年のミュンヘン安全保障会議(MSC)は、2月19日にオンラインで開かれた。1963年より独ミュンヘンで毎年2月に開かれる伝統的な国防会議で、かつては冷戦下における東西陣営の対話にも大いに貢献した。冷戦後はNATOとEUを中心に、国防関係者のみならず、政界、経済界の重鎮が集まる重要な世界会議という位置づけに変容。最近ではロシア、中国、インド、日本なども常連の仲間入りをし、昨年は、河野太郎防衛相、茂木敏充外相(いずれも当時)がそろって参加した。

(左)前防衛相の河野太郎氏。(右)茂木敏充外相。
撮影=プレジデントオンライン編集部
(左)前防衛相の河野太郎氏(右)茂木敏充外相

今年のハイライトになったのが、バイデン米大統領の基調講演だった。普段なら、ミュンヘン安全保障会議に米国の大統領が登壇することはないため、欧州勢は大いに沸いた。

バイデン・フィーバーはたちまち他の首脳に伝染し、置いていかれてはなるものかとばかりに、大物が次々と参加を表明。結局、オンラインという手軽さも手伝ったらしく、メルケル独首相をはじめ、マクロン仏大統領、ジョンソン英首相など錚々そうそうたるメンバーが勢ぞろいした(普段なら外相や国防相が出席することが多い)。

「America is back」にほっとした西側の首脳たち

トランプ政権の4年間、EUと米国の関係は冷え切ってしまい、特にメルケル首相とトランプ前大統領の不仲は悲惨と言えるレベルに達していた。マクロン大統領も、当初、自分はメルケルよりうまく立ち回れると思ったようだが、やはりそうはならず、国連では気候問題で衝突、NATOをめぐってはアフガニスタンからの駐留軍撤退や軍事予算で不協和音と、そのうち軍事同盟どころではなくなってしまった。

こうして皆が頭を抱えていたところに、この日、バイデン大統領が穏やかな顔で登場し、「America is back(アメリカは戻ってきた)」と言ったのだ。思えばあまりにも単純でいぶかしくなるほどだが、それでも欧州勢はほっとして、これをどうにかして西側の軍事同盟の新しい門出にしなくては、と心に誓った。米国の威力はまだまだ捨てたものではない。

では、バイデン大統領は、America is backの他に何を言ったのか?

彼は、自分が歓迎されていることを知っていた。何を言えば欧州勢が喜ぶかということも。そこで、ホワイトハウスに居ながらにして欧州勢を優しく抱きしめ、彼らの聞きたいことをてんこ盛りにした。少なくとも、そういうふうに私には見えた。