※本稿は、谷本真由美『世界のニュースを日本人は何も知らない2 未曽有の危機の大狂乱』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
ブラック人権擁護のデモは、誰のためか
2020年6月のはじめには、アメリカでアフリカ系の黒人が警官に殺害された事件を受け、黒人の人権を擁護すべきだと訴える「ブラック・ライヴズ・マター運動」のデモが起きました。イギリスでもこの動きが広がり、ロンドンの中心やバーミンガムでも大規模なデモが組織され、警官が20名以上負傷しました。負傷者には丸腰の若い女性警官も含まれていました。そもそもイギリスの警官は、武装部隊を除き銃を持っていないのです。
ロンドン中心部のチャーチル像をはじめとし、黒人の迫害にまったく無関係な銅像や戦没者慰霊碑、テロリストと戦って殉職した警官の慰霊碑までもが破壊されるという事態になり、商店が暴徒に襲われました。デモ隊の中には戦没慰霊碑に放尿する人もいたほどです。
ビーチがあるブライトンではおよそ1000人がデモに繰り出しましたが、当然のごとく3密を破りまくりで、マスクなんてつけるわけもなく、新型コロナのことなど誰も考えていませんでした。
こうしたブラック人権擁護のデモは、本当に彼らのためになっていたのでしょうか。アメリカと同じくイギリスやフランスでも、新型コロナで重症化している黒人は少なくありません。特にイギリスは1950年代から60年代にかけて労働者不足に陥り、ジャマイカなどカリブ海の旧植民地から黒人を熟練労働者として大量に「招聘」したため、現在でも病院や交通機関、小売などで働く従業員の多くが黒人です。
今は子どもや孫の世代になっていますが、家から近い、雇用が安定している、といった理由で親と同じ仕事をしている人も少なくありません。こういった仕事は社会を動かすためにたいへん重要ですが、人と接触することが多いので新型コロナの感染リスクが高めです。
さらに黒人は仕事の都合などで、密が起きやすい都市部に住んでいる人が少なくありません。
ですから、本当に黒人の人権を守ろうと思うなら、3密を避け、政府のルールに従うべきなのです。それなのにイギリスは、そんなことなど考えない人だらけなのです。