人種差別には根強いカーストがある

「ブラック・ライヴズ・マター運動」は黒人に対する差別が大きな問題として取り上げられ、反対運動に発展しましたが、その一方で東アジア人に対する差別はなぜかまったく問題になりません。それどころか、実際に起きている暴力的な事件がテレビや新聞では非常に扱いが小さく、そういった事件が「東アジア人を守ろう」といった運動にちっとも発展しなかったということもショッキングな事実です。

彼女をあざ笑う手
写真=iStock.com/asiandelight
※写真はイメージです

この差別は中国人だけでなく、韓国人や日本人そして東南アジア人などアジア系の人々に対して向けられたものです。そして驚くべきことに、こうした問題を議論しようとする動きすらないのです。

普段「差別反対」「少数派の権利を守れ」と言っている人々、「ブラック・ライヴズ・マター運動」に熱心なリベラル系の日本人などは欧米について「人権擁護が進んでいる」と言いますが、実際は彼ら自身も差別されているのが実態なのです。

この事実は、アメリカや欧州という土壌には根強い差別があるのだということを表しています。つまりアメリカや欧州には、「権利を守られる少数派」と「守られない少数派」がいるということです。残念ながら東アジア人はその後者に属しています。日本でも、これに薄々気がついている人がいるのではないでしょうか。

今年の1月以後、東アジア人が各地でどんなひどい差別を受けているかということを調べればよくわかります。これらは、日本ではほとんど報道されることがありません。

タイ人を殴りながら「コロナウイルス! コロナウイルス!」

2月、23歳の中国系シンガポール人ジョナサン・モクさんが、ロンドン中心部のオックスフォードサーカスを夜9時ごろに歩いていると、突然、殴る蹴るの暴行を受け、顔の形が変わるほどの大ケガをしました。

Facebookには真っ青に腫れ上がった顔の写真が投稿され、なかでも目はゴルフボール大にまで腫れ上がっていました。彼を殴った男はイギリス人で、「お前の国のコロナウイルスは、俺の国にはいらないんだよ!」と叫びながらメチャクチャに殴りました。

ここは渋谷の駅前みたいな場所で、ロンドンではもっとも人気がある繁華街です。普段から観光客や買い物客が多く、警官も何人かパトロールしているので、夜でもかなり安全です。暴力事件や犯罪が起こるような場所ではありません。そんな安全な場所で、明らかに人種差別が原因の暴行が起きてしまったのです。

また、ベトナム人キュレーターのアン・グエンさんは3月はじめ、ロンドンで開催されるイベントの準備中のギャラリーから、「観客が怖がるのでうちのギャラリーのブースに来ないでほしい」というメールを受け取りました。

さらに、金融街で税務コンサルタントとして働いているタイ人のパワット・シラワタクンさんは2月、西ロンドンのフルハムで昼過ぎにバスを降りようとしたところ、10代の若者2名に顔をひどく殴打されて出血したうえ強盗に遭いました。

殴っている最中に若者たちは、「コロナウイルス! コロナウイルス!」と叫んでいた。周囲には大勢の人がいて、見通しのよい通りだったにもかかわらず、彼を助ける人はいなかったのです。この事件はシラワタクンさんが二人を撮影し、警察に届け出たことで発覚しました。