居ても立っても居られず、義姉に相談

冷蔵庫には、腐った食べものが目に付くようになった。僕のことはもちろん、娘のことも気に掛けなくなり、何か心ここにあらず、明らかにX社や、僕にはわからない何かに心をとらわれていた。口をついて出るのは、徹子さんへの強い憧れや、「トンデモ」な話題ばかりだった。

ある日の朝、僕が家を出るとき、妻のあまりの様子に「洗脳されてる?」と思わず口をついて出てしまった。妻は驚いた顔をしていたが、何も言い返さずきょとんとしていた。僕は黙って家を出て仕事に向かった。

もうX社製品にまみれた家にいることも、X社にハマり人格が一変した妻と一緒にいることもできなかった。これ以上、妻を嫌いになりたくなかった。僕は会社で寝泊まりするようになった。

妻がX社の製品を買っていること、様子がおかしいことは、ずっと夫婦の問題だと思っていたし、誰かに話すのは恥ずかしいという気持ちがあった。だが、僕は居ても立っても居られず、地方に暮らす義姉に相談のメールをした。「私、ズュータンの気持ち、よくわかります。うちに泊まりに来たときもずっとあれを食べてはいけない、これを食べると病気になるとか、そんな話ばかりされてゲンナリしました。X社の話もしていました。妹は洗脳されてると思いました」という返事が来た。

妻は平泉さんや徹子さんから聞いたことを鵜呑みにし、X社を信奉

その後、妻と数回メールのやりとりをした。妻のX社への強い気持ちを理解してあげあれなかったことを詫びた。そして僕もX社に興味があるから、平泉さんや徹子さんから聞いた知識を僕にも教えてほしいとお願いした。だが妻からの返信メールでは、平泉さんや徹子さんから聞いたことを鵜呑みにし、X社を信奉している様子が窺えた。

僕は反発してはいけないと気をつけながら、たとえばX社の空気清浄機だとセシウムが完璧に取れるとか、サプリメントやプロテインがうつ病やパニック障害に聞くとか、どんな成分が入っているのかとか、聞いたことが本当にそうなのか、平泉さんや徹子さんに確かめてほしい。もう少し科学的根拠を教えてほしいとメールをした。

すると「X社の人はそこまで細かいこと気にしない。X社が好き。それでOK! 60歳を過ぎても健康で綺麗な平泉さんや徹子さんを見れば、X社のすごさがわかると思います。私はX社を紳士的で素晴らしい会社だと思っています」という内容の返信が来た。それ以上会話を続けることができなかった。