あとから考えれば「当たるわけない」という失敗ばかり

——とりあえず人を信用するタイプではありますよね。

【東】人を信用するタイプですね。で、デカい話が来るとすぐ、「お、いいね! やろうよ!」みたいな感じで夢を見てしまう。そして、あんまりお金がかかることを気にしない。

——一発当たればなんとかなるよっていう発想で。

【東】そう、「ワンチャン来るでしょ」みたいな(笑)。でも当たらない。あとから考えれば当たるわけないじゃんみたいな、そういう失敗ばかりでしたね。

——なんでこんなにお金でだまされるんだろうっていう思いですよ。

【東】コスト感覚がないんだと思います。あればあるだけ遣うというか、貯蓄とかそういう概念もなくて。それはプライベートでもそうなんです。最近ちょっとお金を貯めるようにしてますけどね、老後のためにも。計画性がないんですよ。

東浩紀さん
撮影=西田香織

——すごい当たり前のことに気付いた、と。ちなみにボクは編集プロダクション出身なので、最初にコスト感覚が叩き込まれてたりするんですよ。どうやったら赤字にならないかって、まず考えて。

【東】べつにこっちで採算が取れなくてもあっちが儲かってればいいじゃん、みたいな感じなんですよね。端的に言うと、社会人経験がないからだと思います。『ゲンロン戦記』にも書いてあるけど、ふつうだったら20代、30代で学ぶはずのことを年齢を重ねてからやってしまったところはありますね。

この10年間で大学人や知識人に対する見方がかなり変わった

——その感覚がないまま動くお金がデカくなっちゃったんですね。

【東】そうですね。あと、自分の能力への過信がすごく強くあった。若い頃にある程度成功してるので、いざとなったら1000万、2000万ぐらいの借金は埋められるだろうっていう過信があって。結局それがいろんなところの判断の甘さだとか、本当は他人と共同で仕事をしているにもかかわらず、いざとなったら俺が穴を埋めるんだから俺の言うことをきけっていう傲慢にもつながってたと思うんですよ。反省だらけの10年ですね。

——だからこそリアリティーのある苦しみとかは伝わりますよ。

【東】どうなんだろうなあ。あるのかもしれないけど、凡庸な話だと思いますよ。ふつうに生活をして会社人をやればこういうことを学ぶっていう、ごくごくふつうのことを10年間かけて学んできた。それでもぼくがちょっと変わってるのは順番が逆ということで、ふつうだったらビジネスがある程度うまくいってからメディアに出たり大学の先生をやったりするんだけど、ぼくはメディアに出たり大学の先生をやったあとにビジネスをやってる。だから客観的に分析できちゃってるところがあるんだと思いますけどね。

とにかく、ぼくはこの10年間で大学人とか知識人に対する見方がかなり変わってしまったので、昔のようには戻れないです。それがいまネットとかで冷笑的と言われたりするんですけど、冷笑では借金できませんよ。こんな何千万も借金してるのに、なんで冷笑的って言われなきゃいけないんだって常に思っている。ハッシュタグ運動みたいに冷淡なのもそのせいですね。ハッシュタグで世の中は変わんねえよ、ハッシュタグで給料を払ってみろよって感じなんで。

——ダハハハハ! ボクも冷笑って言われがちなんですけど、やっぱり左右どちらかのはっきりとした意見が求められてるんでしょうね。