「結局俺が支えている」という意識こそが問題だと気がついた

——そういう理想でゲンロンを初めて。

【東】ただ、モデルを作っただけで、結局ぼくが体力があるあいだ頑張って維持して、ぼくが倒れたらダメになるようだったら、やはりモデルは正しくなかったことになる。だから、これをモデルとして離陸させることが今後もぼくの目標なんですよ。ただ、これはいまはクリアに言えていますが、『ゲンロン戦記』に書いてあるとおり、長いあいだどこかで結局俺が支えている、とも思ってたわけですよ。その意識こそが問題だと気がつくのが2018年の末なんですね。

——それでゲンロンの代表を降りて。

【東】代表を降りて、いまシラスというプラットフォームも始めて。シラスはいろんな人たちがテナントとして入ってくれることを想定しています。

手を組む
撮影=西田香織

——東さん的な頭のいい人の失敗例としてよく見るのが、ほかの人たちもみんな自分ぐらいできて当たり前だと思ってたらそうじゃなかったって気づくパターンなんですけど。

【東】ぼくの失敗はそういう話じゃないと思いますね。ぼくはできてないことがすごく多いんですよ。そのことにぼく自身が気づいてなかった。『ゲンロン戦記』にも書いたけど、ぼくが辞めたあとのほうがウチの会社はぜんぜん利益が出るようになってるんですよ。これはたいへんなことで。ぼくはとにかくビビりましたよ、ぼくが辞めたあとの回復。

ぼくが辞めたあとのほうがぜんぜん利益が出るようになった

——会社の業績が劇的に回復して(笑)。

【東】衝撃を受けました。ホントに心の底から衝撃を受けた!

——きちんと経費削減して。

【東】そうそう! おまけに売上高も減ってない。おかしくない? 俺は何やってたの? 金をつかってただけ? そのとおりだっていう(笑)。やっぱり能力がないところはないんですよ。そのことに気がついて、ぼくはいままったくもって謙虚というか反省しかない。

——本を出す度にデザインとか印刷に凝りまくってどんどん赤字になっていく流れとか、読んでてハラハラしましたよ。

【東】そうなんですよ。「金かかりすぎるからやめろ」って誰か言ってくれって。でも、それは俺が言えって話で。いまは言われる世界になった。

——ようやく。

【東】そう。ぼくはホントにバカですからね、いまの経営状態でぼくが社長だったら、たぶんまた数千万使ってセミナーハウスを作るとか、そういうことを考えてたと思いますね。ぼくは昔からセミナーハウスを作りたいんですよ。高原みたいなところに「ゲンロン」って書いてあるセミナーハウスがあって、夏にそこに行くんだみたいな……。でも、これなんの実体も伴ってないので、それ借りてどうすんだっていう。

——でも、いまそういう物件は安いですよね。

【東】そうそう。ときどき不動産調べると、いまマジ投げ売られてるんですよ、いろんなところの別荘とか旅館が。ゼロ円もあるの。そういうの発見するたびに、「おっとゼロ円!? これ俺が社長だったらいっちゃうなあ!」みたいなこと言ってるんだけど、でもそのたびに社長の上田(洋子)さんにたしなめられている。「雪が降ったらだれかが雪を下ろさなきゃいけない」「たしかにそうだ」みたいな。

——ダハハハハ! まだ現実を見ない部分があるんですね(笑)。

【東】雪ぐらいなんとかなるだろうと考えちゃうんですよね。(後編に続く)

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