次に、EV化は自動車生産におけるすり合わせ技術の重要性を低下させる。数え方にもよるが、内燃機関を搭載した自動車には約3万~5万点の部品が使われる。EVではエンジンを中心に1万点の部品が不要になるといわれる。つまり、自動車産業自体が、高度なすり合わせ技術に支えられたものから、デジタル家電のような組み立て型の産業に移行する。その結果、雇用が減るだけでなく、わが国の設備投資と研究開発費にも大きな影響があるだろう。

現時点で2050年のカーボン・ニュートラルを目指す政策が、裾野の広い自動車産業の強みを伸ばすことにつながると考えることは難しい。

多様な電動化技術を組み合わせて取り組むべき

電動化の手段はEVだけではない。HV、PHV、燃料電池車(FCV)など多様な方策がある。

わが国自動車産業はそうした技術を自助努力によって生み出してきた。また、わが国には軽自動車という固有の車種がある。地方の農作業や通勤に、軽自動車は不可欠だ。つまり、一国の自動車産業にはその国の人々の生き方=文化が反映される。政府は、自動車の社会的な役割と文化的側面をしっかりと理解した上で、多様な電動化技術を有効に組み合わせ、環境対策に取り組むべきだ。それが産業政策としてのあるべき姿だろう。

自工会会長の発言の根底には自動車が日本の社会と経済を支えてきたとの使命感がある。わが国のHV技術は、世界の自動車産業と消費者に大きな影響を与えた。産業政策として考えた場合、わが国はそうした低燃費技術、安全性、環境性能などをさらに伸ばすことを目指せばよい。そう考えるとより効率的な内燃機関の開発や、EV、PHV、FCVの性能向上に関する研究開発を財政面からより積極的に支援する発想は不可欠だ。

EUに遅れまいと象徴的な目標を掲げたか

世界的な潮流としても、電動化=EV化ではない。中国政府はHVを低燃費車に位置づけ、重視している。社会インフラの整備が進んできた中国でさえ、内燃機関を搭載した自動車の重要性は高い。アジア、アフリカ、南米の新興国であればなおさらだ。

わが国はそうした新興国のニーズを取り込んで、国際社会で自国の産業に追い風となるよう環境政策に関する主張を行い、そのために必要な技術を世界に提示すべきだった。それが、国際的な産業競争力向上に資す。

政府のカーボン・ニュートラル政策にはそうした意気込みが感じづらい。どちらかといえば、環境対策で経済成長を目指そうとするEUなどの後塵を拝さないように“2050年までにカーボン・ニュートラルを達成する”という象徴的な目標を掲げた側面が大きいように見える。結果的に、自国経済を支えてきた強みが何かという視点が欠けた印象を持つ。

社会の持続性のために環境対策が重要であることは明白だ。しかし、その問題と、欧州各国などの主張を取り入れることは違う。わが国経済を支える自動車産業への影響を考えると、政府は産業構造の実態や自国の強みをしっかりと理解し、国内外の世論から共感される産業政策を進めなければならない。

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