新型コロナウイルスの影響で自動車業界は危機にある。だが、トヨタ自動車だけは直近四半期決算で黒字を計上した。なぜトヨタは何があってもびくともしないのか。ノンフィクション作家・野地秩嘉氏の連載「トヨタの危機管理」。第13回は「保全という仕事」——。
トルコ・サカリヤにあるトヨタ自動車工場で働く作業員ら(2017年4月19日)
トルコ・サカリヤにあるトヨタ自動車工場で働く作業員ら(2017年4月19日)

トヨタに欠かせない3つの「保全」

トヨタの危機管理における大きな特徴のひとつに「卓抜な保全の力」を上げた。では、同社の保全マンは他社と比べてどこが違うのか。常日頃からどういった仕事をしているのか。

トヨタの事例を説明する前に、まず保全には「事後保全」「予防保全」「予知保全」という3種類があることを伝えておかなくてはならないだろう。

事後保全とは設備、機械、システムの機能が停止したり、パフォーマンスが低下したりした場合、原因を究明して対処することを言う。

予防保全は、さらに「定期メンテナンス」と「予防メンテナンス」に分かれる。

定期メンテナンスは文字通り、設備、機械、システムを安定的に稼働させるため、点検、修理、部品交換を定期的にやること。

予防メンテナンスは設備、機械、システムを安全に稼働させるために行う活動。部品がどれくらい劣化しているかを調べて交換する。

予知保全は兆候管理でもある。異常が出そうな兆候を認めたら、素早く予防メンテナンスを実施して対処することだ。そうした地道な日々の業務がトヨタの安定した生産と品質を支えていると言っても過言ではない。そして、危機管理や支援活動もトヨタの保全マンの一つの使命である。

危機管理、支援活動は事後保全であり、その他は日常的な保全業務だ。

「こわける」前の予防に力を入れる

トヨタの保全の力については、執行役員で「おやじ」の河合満、そして、エンジンを作る上郷工場の斎藤富久工場長に聞いた。

ふたりが使う言語は三河弁だ。たとえば「こわける」という言葉がある。わたしは部品を小分けにすることかと思っていたら、そうではなく、「壊れる」の意味だった。

わたしが、おやじに聞いたのはトヨタの保全と他社のそれとの違いである。

河合は言った。

「まず、うちは人数が多い。よそはうちの6割くらいでしょう。それだけではない。トヨタはどの工場の各部、各課も保全マンを抱えているし、特に予防保全に力を入れている。予防保全、つまり、こわける前にこわけないようにする保全は他社はあまりやっていないね。

それと、海外工場の支援を日ごろからやっているんですよ。うちは『トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)』というシステムで、車台や部品を共通化しています。工作機械も共通だから、海外工場から突発的な故障に対して質問が来てもすぐに対処できる。

新型コロナ危機では保全も海外出張できなかったから、リモートで機械の故障を直す指導をしていた」