壊れたものをただ直すだけではない

「保全はいったん、危機が来たら協力会社や一般のところへ支援に行きます。それも復旧するだけでなく、工作機械の故障まで直してくる。ついでに、不良品が出ないような指導もしてくる。小さな工場だと保全マンがいないところもあるんですよ。そういうところに派遣して保全のすべてを教えてくる。

そして、これはうちにとっては人材教育なんです。教えるためには自分が勉強しなくちゃいかん。僕は言ってるんだ。協力会社へ派遣したら、先方の方たちに『こいつらから教わるだけでなく、現場とは何かを厳しく教えてやってくれ』と。

保全マンは先生じゃない。同じ立ち位置でいろいろなことを勉強させてもらう。それで勉強させてもらったら、その恩返しに一つぐらい何かおまえいいことを置いてこいよと言っとるんだ。向こうが不良で困っとるとする。自分がノウハウを持っていたら、それをちょっと教えてこい、と」

トヨタの保全マンは修理するだけではない。直したうえで、その後も故障が出ないような予防保全の仕方を指導してくる。

そして、彼らは保全の力を維持するために勉強を欠かさない。たとえば電気制御、センサーといった機器の場合、技術の進歩は日進月歩(古い)というか、昨日の技術はもう通用しない。IT、制御については日々、知識の習得とスキルアップに励んでいる。

機械の点検
写真=iStock.com/da-kuk
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メディア初?「保全マン」に密着

わたしは実際に保全マンに会って仕事について、話を聞いた。

面白いことに、保全マンに取材を申し込んだのはトヨタの歴史始まって以来、わたしが(ほぼ)初めてだという。彼らは社内報に出ることはあったが、外部メディアには出たことがない。まったくの縁の下の力持ち(これも古い)なのである。

さて、上郷工場(愛知県)は1965年に稼働を始めた。日本初のエンジン専門工場で、鋳造から機械加工、組み付けまで一貫して生産している。

工場の従業員数は、約3000人、そのうち保全マンは約280人。トヨタのなかでも保全の人数が多い工場で、業界平均よりも3割は多い。

保全は機械設備課という名称になっており、8つのセクションに分かれている。担当する設備の台数はトータルで3700台である。仕事は3交代で24時間勤務。休みの日以外、保全マンは必ず生産現場にいる。

ひとりの男がわたしに近づいてきて、最敬礼した後、挨拶をした。取材に慣れていない様子である。

「こんにちは。私は機械設備課の副課長をしております高橋洋一です。現場の保全をやって37年間。ずっと保全一筋でやってきました」

高橋は最敬礼した後、わたしが返礼するのを待たず、マイクを持ち、ソーシャルディスタンスを保ちながら、一方的にしゃべり始めた。