政府目標に豊田自工会会長が危機感
菅義偉首相は所信表明演説にて「2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする“カーボン・ニュートラル”を実現する」と述べた。これに対し、日本自動車工業会(自工会)の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は12月17日、その目標実現に自動車産業全体として取り組むと表明しつつも、画期的な技術的ブレークスルーや財政面で世界各国に引けを取らない支援がなければ、国内で雇用を増やし、自動車を製造・販売し、納税を行うことが難しくなると危機感を示した。
豊田氏の発言の背景には主に2つの要因がある。まず、温室効果ガスの削減のためには、わが国のエネルギー政策の転換が不可欠という点だ。もう一つは、自動車は日本経済を支える主力産業という社会的責任だ。自動車産業は精密なすり合わせ技術という強みを磨き、さらにはハイブリッド車(HV)などの電動化技術を生み出して経済成長を支えてきた。
つまり、豊田氏は、事実に基づいた政策の立案と情報発信がなされているか、自動車産業の代表として政府に冷静かつ現実的な対応を求めた。環境対策が重要であることは言をまたない。電気自動車=EVが環境負荷の軽減につながる可能性はある。
その一方で、EVには充電インフラ整備のコストや電力供給能力の向上といった課題もある。政府は、世界的に注目を集め重要性が高まっている環境対策のプラスとマイナスを客観的に評価し、わが国産業の強みがより良く発揮され、なおかつ環境面でも存在感を発揮できる産業政策を立案・施行しなければならない。
日本経済を支え、世界に誇る技術を生み出してきた
わが国経済にとって、自動車は機械と並んで経済成長を牽引してきた重要な産業だ。その特徴は、完成車メーカーを筆頭に、素材、部品、各種パーツなど広大なサプライチェーンを構築し、産業の裾野が広いことにある。わが国就業者の約8%が自動車関連だ。四輪車、二輪車およびその部品を含めた輸出は、わが国の輸出全体の約21%を占める。設備投資や研究開発にも、自動車産業が与える影響は大きい。
わが国の自動車産業は技術を磨き、より効率的に、より良い自動車を生み出してきた。それが、ハイブリッド車(HV)やプラグイン・ハイブリッド車(PHV)の実用化を支えた。一時、米ハリウッドの映画スターがトヨタの“プリウス”を好んで買っていたことは、同社の技術が世界を席巻した証左といっても過言ではない。また、自動車各社はガソリン車の燃費向上にも積極的に取り組んだ。