東京五輪代表内定した「元OL」女子陸上選手・新谷仁美のプロ根性
新谷仁美(積水化学)の走りは、本当に神がかっていた。
12月4日に行われた陸上長距離の日本選手権、女子10000m。3000m付近で抜け出すと、5000mを15分07秒で通過する。後半は独走して、日本記録より何と28秒も速く30分20秒44でゴールに飛び込んだのだ。一山麻緒(ワコール)を除く19人を周回遅れにする圧倒的な走りで、東京五輪代表の内定をゲットした。
新谷の自己ベストは“引退レース”となった2013年モスクワ世界選手権でマークした30分56秒70。25歳のときに打ち立てた記録だ。それを約3年半のブランクを経て復帰して、32歳で大幅に更新したことになる。2019年2月に取材したとき新谷はこう話していた。
「周囲がモスクワ世界選手権の頃と(ブランクを経て復帰した今を)比べるのは普通のことですし、自分も5年半前の自分を意識しています。25歳の自分が亡霊みたいで邪魔だなと思う。だからこそ、25歳の私を超えて、過去の自分に決着をつけたいんです」
日本選手権はゴールした直後、新谷は珍しく両手を上げて喜びを表現した。その後のインタビューでも、「コロナ禍のなかでもたくさんの人たちが応援に駆けつけてくれたことが大きな力になりました。先頭を走っていたときは、アスリートとしてパフォーマーとして、この応援に応えたいという気持ちでした。現役復帰したときに、日本記録を更新しなければ世界と戦えないと思っていた。更新できて良かったです」と笑顔を浮かべた。
「OLより陸上のほうが手っとり早く稼げる」
新谷は包み隠すことのない“コメント”がいつも話題になる。
3年半に及ぶエクセルなど慣れないオフィスワークのOL生活を経て、プロランナーとして復帰を決めたときも、その理由をこう答えている。
「正直、もう一度走りたい、という欲はありませんでした。でもOLでお金をためるよりも陸上のほうが手っとり早く稼げると思ったんです(笑)」
新谷は報道陣に対して、リップサービスをしてくれるタイプ。その大胆な発言は注目を浴びることが多い。ときには誤解を与えることもあるかもしれないが、新谷はきれいごとではなく、本音で語っている。だからこそ、その言葉は力強く、多くの人を惹きつけているのだろう。