ラグビーの福岡堅樹、柔道の朝比奈沙羅……日本代表クラスの実力を持ちながら、医師や歯科医を目指すアスリートがいる。スポーツライターの酒井政人さんは「陸上の110mハードルの金井大旺選手は、東京五輪後、歯科医になるべく練習しながら歯学部の受験勉強をしています」という。彼らの驚くべき文武両道力とは――。
男子110メートル障害決勝で優勝した金井大旺(ミズノ)
写真=時事通信フォト
男子110メートル障害決勝で優勝した金井大旺(ミズノ)=2020年8月29日、福井県営陸上競技場

進学高→日本代表→医師・歯科医というキャリアの人の文武両道力

新型コロナウイルスの影響で2020年の東京オリンピックは2021年に延期された。長い人生でいえば1年という歳月はさほど長くないかもしれない。しかし、“適齢期”のアスリートにとっては、人生の「決断」を下す必要があるほどの時間になる。

昨秋のラグビー・ワールドカップで日本代表のウイングとして活躍した現在28歳の福岡堅樹(県立福岡高校→筑波大→パナソニック)は7人制ラグビーでの東京五輪挑戦を断念。祖父と同じ医師の道に進むことを選択した。

また、柔道の2018年世界選手権女子78キロ超級で金メダルを獲った、現在24歳の朝比奈沙羅(渋谷教育学園渋谷→東海大→パーク24)は、昨秋、独協医科大医学部に合格した。7歳から柔道を始め、高3時に柔道の強豪でもある東海大に入るべく医学部受験したが不合格となり、同大体育学部に入った。父親が医師、母親が歯科医ということもあり、彼女は現在、東京五輪と医師の両方を同時に目指すという。

一方、東京五輪を最後に、同じ医系のキャリアへと進むことを考えているアスリートがいる。9月28日に25歳を迎えた金井大旺(ミズノ)だ。

10月に開催された日本陸上競技選手権の男子110mハードルで2年ぶりの優勝。ちょっと長めの髪型もあり、見た目はチャラいが、福岡や朝比奈に負けず劣らず自ら“人生”を切り開いてきた。金井の挑戦はビジネスパーソンや夢を目指して生きている人の参考になると思うのでぜひ紹介したい。

見た目はチャラいが、函館ラ・サール高校を卒業した秀才アスリート

金井のキャリアは日本陸上界のトップクラスでは異色だ。地元のクラブチームで競技を始めると、中学3年時には110mハードルで北海道中学記録をマーク。金井は北海道で代々歯科医を営む家庭に生まれたこともあり、当時から「歯科医師」になる夢を抱いていた。

そのため、高校は陸上強豪校ではなく、「地元で一番学力が高いところで勉強も頑張ろうと思いました」と名門ラ・サール函館高校に入学する。7割が寮生活を送る男子校で金井は自宅から通い、陸上部で汗を流した。

高校2年時はインターハイの男子100mハードルで6位に食い込むと、自ら指導力に定評のある法政大・苅部俊二監督にコンタクトを取り、法大の練習に参加している。しかし、3年時のインターハイは5位。優勝した選手は2年生で、その差は歴然としていた。

「中学生頃から歯科医師の道に進みたいなと思っていて、その気持ちが徐々に高まっていました。でも、インターハイで負けてしまい、大学でも競技を続ける決意をしたんです。どこで陸上をやるのか迷っていたんですけど、自分で調べて、よく考えた結果、法大に決めました。それが高校3年時の9月くらいです。スポーツ推薦はもう埋まっていたので、スポーツ健康学部のAO入試を受けて合格しました」