来年12月までにイギリス国民の3割に接種する計画

イギリスで12月8日、新型コロナウイルス感染症に対するワクチンの接種がスタートした。ワクチンはアメリカのファイザーとドイツのビオンテックが共同で開発したもので、国民への大規模な接種は先進国ではイギリスが初めてだ。アメリカも近く接種を始める。同じワクチンは日本へも供給される。

2020年12月8日、英国で始まった新型コロナウイルスのワクチン接種(イギリス・ロンドン)
写真=AFP/時事通信フォト
2020年12月8日、英国で始まった新型コロナウイルスのワクチン接種(イギリス・ロンドン)

報道によると、イギリスでの接種は重症化しやすい80歳以上の高齢者のほか医療関係者らが優先され、来年12月までに4000万回分(2回接種で2000万人分)の供給を受け、イギリス国民の3割に接種する。この12月中に500万回分が供給される。

イギリスの感染死は6万人に達している。このため政府が早期接種の実現を目指して12月2日にワクチンを緊急承認し、その6日後に接種を始めた。ジョンソン首相は「来年4月のイースター(キリスト教の復活祭)のころには、社会・経済活動の制限から抜け出せる。ワクチンを開発した科学者に感謝したい」と語っていたが、ジョンソン氏の思惑通りにことが運ぶとは限らない。

ワクチンに期待を寄せるのは当然だろう。しかし、ワクチンは人間の体にとって異物だ。多くの人が接種すれば、必ず副反応の訴えが出てくる。

人体にもたらす作用がすべて解明されているわけではない

とくに今回のワクチンは、人工合成した新型コロナウイルスの遺伝子の一部を使う初めてのワクチンで、人体にもたらす作用がすべて解明されているわけではない。しかも常温だとすぐに効果が失われてしまうため、氷点下70度という超低温での冷凍保存が欠かせない。超低温保存でも保管の有効期限は半年しかない。有効な獲得免疫を得るために接種が2回必要になる。

安全性と有効性を見極め、輸送と保存の冷凍施設をどう確保するか。ワクチン供給という問題はこれからが正念場である。

今回のワクチンは「メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン」と呼ばれる遺伝子ワクチンである。製造方法などがこれまでのワクチンとはまったく違う新しいタイプのワクチンだ。

病原体のウイルスを複製するメッセンジャーRNAの断片を人体に投与することで、ウイルスの一部のタンパク質(抗体)が細胞内で合成され、発症や重篤化を防ぐ免疫が獲得できる。

製造・開発に5年ほどかかる既存のワクチンと違い、遺伝子ワクチンは製造・開発時間が極めて早く、効き目も高いとされている。インフルエンザやHIV(ヒト免疫不全ウイルス)といった感染症、がん、アルツハイマー型認知症の予防と治療への応用などが期待されている。しかし、これまで遺伝子ワクチンが承認され、実用化に踏み切った例はなかった。今回のイギリスが最初になる。