ワクチン承認でGDP成長率予想は下方修正の理由
現在、世界全体で新型コロナウイルスの感染再拡大(日米では第3波、欧州では第2波)が深刻だ。わが国では「Go Toトラベル」事業をはじめ人の移動が活発化したことによって感染者が増え、医療のひっ迫懸念が高まっている。その状況が続けば、わが国経済にはかなりのマイナスの影響があるだろう。わが国や世界経済が新型コロナウイルスの感染を克服するために、ワクチンは不可欠だ。
その点に関して、12月2日に英国の医薬品・医療製品規制庁(MHRA)が米ファイザーと独ビオンテックが開発したワクチンを承認したことは重要だ。両社に加え米モデルナも米食品医薬品局(FDA)に承認を申請した。英アストラゼネカもワクチン開発を進めている。ワクチン開発の進展は、世界経済の持ち直し期待を高め、国内外の株価を上昇させた。
ただし、先行きを楽観するのはまだ早い。政治的な思惑が絡み、今回のワクチン開発は急ピッチで進んだ。副作用のリスクは軽視できない。また、ワクチン供給が広がったとしても、一部産業の需要はコロナ禍以前の水準に戻らない恐れがある。
OECDが最新の経済予測において2021年には世界にワクチンの供給が広がるとの前提を置きつつも、足元の感染の深刻さを理由に来年の世界のGDP成長率予想を下方修正したのはそうした懸念が強いからだ。
ソーシャルディスタンスの強化が経済に与えた影響
新型コロナウイルスというパンデミックの発生によって、世界の実体経済はかなり不安定な状況にある。最も重要なことは、ワクチンがない中で感染拡大を抑えるには、人の移動を制限せざるを得ないことだ。
12月2日に米国のFRB(連邦準備理事会)が公表した“ベージュブック(地区連銀経済報告)”の内容を確認すると、ソーシャルディスタンスの強化が経済に与えた影響が確認できる。10月以降、米国では感染第3波が発生し、飲食店の営業時間の短縮や集会に参加できる人数の制限が実施された。それが米国経済を下押ししている。
その結果、前回のベージュブック報告時(2020年10月)と比べた場合、12地区のうち4地区での経済成長はほとんど、あるいはまったくなかった。また、感染の第3波の影響によってフィラデルフィア連銀の管轄地区をはじめとする中西部地域では景気が減速し始めている。各地区の景況感を産業ごとに見ると、飲食、宿泊、航空をはじめとする非製造業の業況が軟化し、新規採用への慎重姿勢が強まっている。