※本稿は、ジャック・アタリ著、林昌宏・坪子理美訳『命の経済 パンデミック後、新しい世界が始まる』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
瞬時にして、生産と消費が崩壊していった
衣服や自動車を購入する者はほとんどいなくなった。飛行機の座席やホテルの部屋を予約する者はほとんどいなくなった。国内の製造業は、外国からの部品調達が困難になったため、多くの製品の生産を停止した。
瞬時にして生産と消費が同時に崩壊していく様子を、われわれは目撃している。第一に、エネルギー消費だ。4月と5月の世界の石油消費量は、前年同月比で3分の1減少した。中国では20%減、アメリカでは30%減、インドでは70%減だった。
非集団隔離型の戦略を選択した国の生産活動は、それほど大きな影響を受けなかった。たとえば韓国のGDPは、電化製品や石油化学製品などの輸出が落ち込んだためにわずかに減少したのみだった。
ヨーロッパの事情はまったく異なる。EUの第1四半期のGDPは3.8%減だった。最も影響を受けたのは、フランス(5.8%減)、スペイン(5.2%減)、イタリア(4.7%減)だ。
第2四半期はさらに悪化する。最も悲観的な予測では、アメリカ経済の第2四半期は38%減、年率換算では12%減だ。
2008年とも1929年とも違う「危機」だ
3月、先行きに懸念を抱いた複数の国際機関は景況の見通しを下方修正したが、大半の国際機関はまだ楽観的だった。世界貿易機関(WTO)は、2020年の世界貿易は前年比10%減と予測するが、実際の減少率はおそらくこの倍以上だろう。国際通貨基金(IMF)は、世界のGDPは3%減と予測するが、実際は少なくとも7%減くらいになるのではないか〔IMFは見通しを下方修正している〕。そうでなくても一部の国のGDPは20%減になるはずだ。
2020年を通じて経済活動は眩暈がするほど著しく下落するだろう。ドイツでは6.6%減、ギリシアでは8%減、さらには、スペインでは11.1%減、イタリアでは11.3%減、フランスでは11.4%減が見込まれている。ただし、これは経済協力開発機構(OECD)の楽観的見通しであり、第二波がない場合の予測だ。
これは深刻な危機である。パンデミックが2020年夏に収束に向かうとしても、今回の危機は、2008年の世界金融危機〔2007年からすでに混乱が始まっていた〕とは別物であり、生産活動が4年間落ち込んだ1929年の世界恐慌とも様相が異なる。今回は、わずか3カ月での急落である。