世界の雇用の「3分の1」以上が脅かされる
この危機は、世界中の雇用に想像を絶する悲惨な影響をおよぼす。
世界の雇用の3分の1以上が脅かされる。おもに単純労働や中間層の職が失われる。最も影響を受ける産業部門は、自動車産業、宿泊業、飲食業、興行、娯楽、貿易だ。アメリカとヨーロッパでは、自動車産業の雇用者数は産業界で最も多く、民間就業者の5%から15%に相当する。最も職を失う可能性が高いのは、10人未満の零細企業に勤める従業員と若者だ(若者が失業しやすい理由は、熟練した技能をまだ身につけていないためや、最悪の時期に労働市場に参入したため〔日本では新卒者の採用内定取り消しなど〕)。とくに中間層は大打撃を受ける。
中国で失業の脅威にさらされるのは、労働力の25%に相当する2億5000万人〔2019年の統計では2億9000万人、労働人口の約30%〕の出稼ぎ労働者だ。
アメリカでは3月に1300万人の労働者が解雇され、4月には2050万の雇用が失われた。2019年末に3.5%だった失業率は3月末に13%に達し、4月末には14.7%にまで上昇した。アメリカの失業率は、5月(13.3%)と6月(11.1%)に奇跡的に回復したが、2020年末までは10%台で高止まりすると思われる。
フランスでは第1四半期に45万人の雇用が破壊された。2020年末には、あらゆる対策を講じても失業率は再び11%にまで上昇する可能性がある。
ヨーロッパでは雇用の4分の1に相当する6000万人の雇用が脅かされている。
この途方もない事態は、思い描くことさえ困難だ。
イタリアでは70万人の子供の暮らしが危機に陥った
国際労働機関(ILO)の総括によると、今回の感染症対策の大失敗により2億人の雇用が破壊され、少なくとも20億人の所得が減る見込みだという。
とくに、中間層の労働価値はテレワークの導入によって減価するため、彼らの存在意義は大きく損なわれる。
2020年3月時点で、アメリカ人の4分の3は収入が減っていた。2020年5月末には、アメリカ人の3分の1は請求書の支払いに苦慮した。5月末を乗り越えるだけの貯えをもつアメリカ人は半数にも満たなかった。3月にアメリカ連邦政府が1回限りで給付した〔1人につき最大〕1200ドルの小切手はすぐに使われた。
100万人近くのヨーロッパ人が極貧状態に陥る。イタリアでは都市封鎖と休校によって70万人の子供たちの暮らしが脅かされた〔低所得世帯の子供が給食などの食糧支援を得られなくなったことを指す〕。イギリスでは、4月最初の2週間で100万人近くの成人が「ユニバーサル・クレジット」〔低所得者向けの統合型福祉制度〕の利用を申請した。これは危機発生前の申請数の10倍だ。
2014年以来減少傾向にあった世界の貧困率は、2020年に再び急増するだろう。