新型コロナウイルスはこれからの世界経済にどんな影響を及ぼすのか。「欧州最高の知性」と称されるジャック・アタリ氏は「過去の経済危機とは性質が全く異なる。少なくとも今後10年間、われわれはこの危機の後始末に追われることになるかもしれない」という――。

※本稿は、ジャック・アタリ著、林昌宏・坪子理美訳『命の経済 パンデミック後、新しい世界が始まる』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

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過去の経済危機とは性質がまったく異なる

新型コロナウイルス感染症による医療面の津波を押しとどめるための解決策は、われわれが知る通り、ワクチンと治療薬の開発だ。その間、大規模な都市封鎖を避けるには、マスクの着用、検査の実施、感染経路の追跡調査、感染が疑われる者の隔離を行うことになる。

一方、経済危機という津波をどうやって押しとどめればよいのかは、よくわかっていない。というのは、これは人類が自己決定により招いた危機であり、過去の経済危機とは性質がまったく異なるからだ。つまり、これは金融経済ではなく実体経済の危機なのだ。その大きさは計り知れない。いまだにほとんどの人がこの危機のあまりの深刻さと多面性について把握できていない。

奈落の底に落ちる前の、ほんのひと時の安息でしかない

今回、自分たちの想像を絶する未知の出来事に遭遇した政治指導者たちは、最初は概して現実を認めようとせず、その後も事態の深刻さを否定した。そして、一切の物事を停止し、危機が自然に過ぎ去るのを待ちながら傍観した後、元の状況に戻さなくてはと狼狽しているのだ。

このような態度では危機を乗り越えることはできないだろう。この間、危機に見合った抜本的な改革を準備できないのなら、それは現実を一時停止させているに過ぎない。ようするに、それは奈落の底に落ちる前の、ほんのひと時の安息でしかない。

事実関係のメカニズム、そして事実を客観的に示すあらゆるデータを把握することは骨の折れる作業だと思われるかもしれない。だが、こうした作業は、われわれの元に訪れつつある課題の驚くべき大きさを理解するうえで欠かせない。

少なくとも今後10年間、われわれはこの危機の後始末に追われることになるかもしれない。その代償を知っておくために、しばし説明にお付き合いいただきたい。