※本稿は、ジャック・アタリ著、林昌宏・坪子理美訳『命の経済 パンデミック後、新しい世界が始まる』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
このような状況が続けば、独裁国家の思う壺だ
第二波が到来し、世界的な法の支配が強まり、バイオテロやサイバーテロ、エコロジーといった新たなパンデミックが引き起こされ、民主主義を軽視するような社会の状態が続けば、騒乱に向けて一直線に進むことになる。その原動力になるのは中産階級だろう。犠牲になるのは、最貧層と中産階級だろう。このような状態が続けば、独裁国家の思う壺だ。彼らは未来への準備を進めている。
たとえば、中国は巧妙に選ばれた七つの部門に焦点を合わせた計画を打ち出したところだ。その部門とは、5G(第五世代移動通信システム)、インターネット、都市間を高速で結ぶ交通手段、データセンター、人工知能、高電圧エネルギー、電気自動車の充電技術だ。これらは国民への監視強化を可能にする部門であり、石油を輸入しなくても発展可能な部門だ。
アラブ首長国連邦も六つの部門に注力する計画を発表したところだ。健康、教育、経済、食品衛生、社会生活、行政だ。
子供たちを危機から守るにはどうしたらいいのか
状況を改善できるかどうかは民主主義にかかっている。できる限り迅速に行動しなければならない。
そのためには、民主主義国家はこれまでに述べた「命の経済」を発展させる必要がある。「命の経済」には、報道の自由と教育など、民主主義の道具が含まれている。
現世代は将来世代の利益を考慮しなければならないだろう。われわれは自分たちの過ちによって今日の子供たちが10歳のときにはパンデミックに、20歳のときには独裁政権に、30歳のときには気候変動の災害に苦しむようなことがあってはならないと肝に銘じるべきだ。
こうした考えは認められ始めている。一部の国や国際組織は脅威への懸念を抱くようになった。一部の企業は、「命の経済」の部門へと転換して将来世代の利益を考慮しなければ生き残れないと気づき始めた。
一部では、将来世代の利益を考慮する「命の経済」の条件について議論が始まっている。
しかし今のところ、大規模で組織的な変化はまだ見えていない。何より、民主国において将来世代の利益に焦点を当てると宣言した政府はまだ存在しない。融資、公共事業、イノベーションのための投資に関して「命の経済」の部門を優先的に扱おうとする政府も存在しない。
将来世代に発言権を与えるための組織化されたメカニズムをつくろうとした政府、選挙制度をより合法的にするための改革を試みた政府もまだ存在しない。