新型コロナウイルスは巨大都市のあり方を変えつつある。「欧州最高の知性」と称されるジャック・アタリ氏は「今回の危機で都市部の景観は様変わりする。人々は都市部の暮らしに見切りをつけ、企業も大都市から離れていくだろう」という――。

※本稿は、ジャック・アタリ著、林昌宏・坪子理美訳『命の経済 パンデミック後、新しい世界が始まる』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

東京
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都市部の景観は様変わりするだろう

今回の感染症により、都会で暮らすのは住民の健康にとって危険だという考えが甦った。たしかに、ミラノ、マドリッド、ニューヨークなどの大都市では、新型コロナウイルス感染症による死亡者が大勢出ている。過去の時代には、パンデミックが起きるたびに都市計画によって清潔な街づくりが推進されたように、今回の危機においても、人口の密集を解消するために都市部の景観は様変わりするだろう。

人々は巨大都市での暮らしに見切りをつける

都市部の住人は今回の危機をきっかけに、生活費が異常に高く密集した巨大都市での暮らしに見切りをつけ、自宅待機中のように一時的にではなく、恒久的に郊外に引っ越してしまうかもしれない。

大都市では、もっと距離を保って暮らすようになるのではないか。というのは、ウイルスは密閉された環境や、数人が一つの部屋を共有する場面で拡散しやすいと考えられるからだ。

緑地、幅の広い歩道、自転車専用レーンは大幅に増える一方で、自家用車と公共交通機関の利用は激減するだろうが、テレワークの発展によって、不便はあまり感じられないだろう。

パリなどの巨大都市では、ここ数カ月間で早くも自転車レーンが整備された。コロンビアの首都ボゴタ〔以前から延べ540キロメートルの自転車専用レーンを設置していた〕では、全長117キロメートルにおよぶ臨時の自転車専用レーン〔毎週日曜日の午前7時から午後2時まで〕が整備された。

駐車場には空きが増えるが、そのスペースは通販や宅配の商品配送センターとして利用できる。道路の法定速度はさらに引き下げられるだろう。たとえば、ブリュッセルの都市中心部やその周辺では、法定速度が時速20キロメートルにまで引き下げられた。歩行者の多い地区では、〔家具量販店〕イケアの店内と同様に一方通行が一般的になるだろう。

密集度の低い小都市には、大都市からの住民が引っ越してくるだろう。人口の密集を解消するための移住も、パンデミック中に潜在的な力が確認されたテレワークによって容易になるはずだ。ヨーロッパ各地の不動産関係者によると、2020年5月以降、別荘の需要は増え、都市部の集合住宅の需要は減る傾向にあるという。