新型コロナウイルスの影響で、テレワークは身近な働き方になった。「欧州最高の知性」と称されるジャック・アタリ氏は「テレワークはこの先、自然な労働形態になる。そのため、看護師、清掃員、レジ係、教員といった職業の賃金を上げるべきだ」という――。

※本稿は、ジャック・アタリ著、林昌宏・坪子理美訳『命の経済 パンデミック後、新しい世界が始まる』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

新型コロナウイルスの検査をするフランスの看護師(フランス・パリ近郊マントラジョリー)=2020年9月21日
写真=AFP/時事通信フォト
新型コロナウイルスの検査をするフランスの看護師(フランス・パリ近郊マントラジョリー)=2020年9月21日

感染症対策が企業の利益につながる

世界のほとんどの地域では、人々は危機後も数世紀前から続く形態で働きたいと思っている。資本家は子供と女性を搾取し続け、過酷な労働条件を課し、労働者の命にまったく配慮しようとしないままだろう。

パンデミックを通じて、われわれはすべての生命が相互に依存していることを学んだ。今回の世界規模の危機が発生したのは、中国の武漢市の生鮮市場の衛生状態が劣悪だったからであり、また多くの野生動物の生息環境が破壊されたからだ。ようするに、世界のどこであっても誰かが伝染病に感染しないことは、全員の利益なのだ。

よって、収益の追求を最大の目標に掲げ続ける民間企業であっても、従業員の間で感染症が広がらないよう労働環境を改善し、従業員との関係性を再編することは、企業の利益につながる。作業現場での密集をなくし、「オープンスペース」を見直し、組み立てラインでの流れ作業を根本的につくり替え、さらなる予防策、衛生管理、検診、治療などを充実させて労働安全衛生を改善すべきだろう。たとえば、従業員は出社前に必ずあらゆる感染症の検査を受け、また自身の健康状態を全員に通知しなければならない、という法律を制定することも考えられる。従業員は消費者と同様に、少なくとも自分たちの健康に深く関わることについては、取締役会の決定にもっと関与すべきだ。

過小評価されている職業:看護師、清掃員、レジ係、教員

さらに、今回の危機により、一部の職業の重要性が、多くの人の間で認識されるようになるのではないか。たとえば、これまで注意を向けられてこなかった看護師、清掃員、レジ係などの職業だ。そして多くの親たちがようやく、学校の教師は苦労の絶えない職業だと気づくようになるのではないか。

人々がこうした認識をもち続けられるようにするには、称賛したり感謝の念を示したりするだけでなく、これらの職業の賃金を上げ、労働の手段や環境を整備し、雇用を増やす必要があるだろう。こうした業務に従事しているのが公務員なら、さらなる税金を投入すべきだ。それは税金の使い道として申し分ない。民間の枠組みで運営されているのなら、これらの職業はすばらしい大市場をつくり出すだろう。これは企業と民間資本の双方にとって利益と成長の源泉になるはずだ。