テレワークの「導入しすぎ」には要注意

しかし、テレワークがあまりに広く浸透して一般化したり、オフィス外でのフルタイム就業が長期化したりするようになると、われわれは、それが企業と従業員の双方にとってよくないことだと気づくだろう(企業にとっては、従業員は自己愛に満ちた不誠実な傭兵のような人物だけになってしまい、力を合わせて働く協力者がいなくなってしまう。従業員にとっては、外出したり、同僚と意見を交換したりする機会が失われる。そして、従業員はテレワークで孤立しているので解雇されやすいと思い、企業の価値観に違和感を覚えるようになる)。

パソコンでの作業中
写真=iStock.com/Rawpixel
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結果として、社内のあらゆる階層でテレワークを導入しすぎる企業は、社員で共有すべき企業精神、事業計画、固持すべき価値観を維持できなくなり、消滅するだろう。

観光業にとっての新たな市場は「オフィス」だ

したがって、企業を守るには、次に掲げる二つのことをなすべきだ。

ジャック・アタリ著、林昌宏・坪子理美訳『命の経済 パンデミック後、新しい世界が始まる』(プレジデント社)
ジャック・アタリ著、林昌宏・坪子理美訳『命の経済 パンデミック後、新しい世界が始まる』(プレジデント社)

一つめは、従業員が企業への帰属意識を感じられるようにする方法を探すことだ。そのためには、共通の価値観を練り上げ、従業員が誇りをもって取り組める、短くとも10年単位での計画を打ち立てることだ。こうした取り組みを「企業の社会的責任(CSR)」に関する曖昧な演説や、単なる定款の変更によって取り繕うことはできない。一部の「Bコーポレーション〔公益に資する事業を行っていると民間の認証団体に認められた企業〕」や「社会的な使命を果たす会社」が、従業員を搾取して消費者に有害な製品をつくっているのは周知の事実だ。

二つめは、職場、とくに本社を、従業員が働きやすい雰囲気にすることだ。より具体的に言うと、従業員に出社したいと思わせるためには、社内のレストラン、会議室、作業場は、居心地のよいホテルのような雰囲気にすべきだろう。

これはパンデミックで壊滅的な被害を受けた観光業にとって新たな市場になるだろう。

観光業には、企業の本社やサービス産業の職場を改装および新設するためのノウハウがある。同様に、観光業は、患者とその家族を丁重に迎える快適な環境を提供するなど、病院のサービス向上にも貢献できるだろう。また、ホテル業のノウハウは高齢者施設の開発にも適用できる。高齢者施設が実際のホテル業界のノウハウから得られるものは多岐にわたり、さらには、供給過剰のホテルを高齢者施設に転用することも考えられる。