ワトスン博士作成の「ホームズの通信簿」

緋色の研究』で、ワトスン博士が「シャーロック・ホームズの知識と能力」を一覧表にしており、これがホームズのことをよく表わしているので、引用しておこう。

1 文学の知識――ゼロ。
2 哲学の知識――ゼロ。
3 天文学の知識――ゼロ。
4 政治学の知識――きわめて薄弱。
5 植物学の知識――さまざま。ベラドンナ、アヘン、その他有毒植物一般にはくわしいが、園芸についてはまったく無知。
6 地質学の知識――限られてはいるが、非常に実用的。一見しただけでただちに各種の土壌を識別できる。たとえば、散歩のあとズボンについた泥はねを見て、その色と粘度から、ロンドンのどの地区の土かを指摘したことがある。
7 化学の知識――深遠。
8 解剖学の知識――正確だが体系的ではない。
9 通俗文学の知識――幅広い。今世紀に起きたすべての凶悪犯罪事件に精通しているらしい。
10 ヴァイオリンの演奏にけている。
11 棒術、ボクシング、剣術の達人。
12 イギリスの法律に関する実用的な知識が豊富。

文学については、ホームズはシェイクスピアから何回か引用しているし、「ボスコム谷の謎」では事件現場へ向かう列車の中で『ポケット版 ペトラルカ詩集』を読んでいるので、知識が「ゼロ」というのは言いすぎだろう。まだ知り合って間もない時期だったので、ワトスンはホームズの文学に関するたしなみに接する機会がなかったのかもしれない。

天文学についても同様で、「ギリシャ語通訳」においてホームズは「黄道の傾斜角度の変化」という高度な知識を披露している。

女性の気持ちをつかむのは上手?

それ以外の特徴を、ピックアップしてみよう。

推理の邪魔になるからと、恋愛は避けるようにしている。しかし女性の気持ちをつかむことに関しては長けている。悪漢の屋敷に関する情報を入手するため、鉛管工に変装して短期間でメイドと婚約までしたことがある。

事件を引き受けている際には「食事をすると脳の働きが悪くなるから」と食事をおろそかにする。考え事をしたり依頼人の話を聞いたりする際には、両手の指先を山型に突き合わせる癖がある。

正典に記述はないが、誕生日は1月6日であるとするシャーロッキアンの説がほぼ定着している。複数の著作や論文を書いており、「人生の書」「各種煙草の灰の識別について」などがある。