シャーロック・ホームズの宿敵は誰か。それは短編「最後の事件」に登場するモリアーティ教授だ。数学の天才にして、さまざまな犯罪の黒幕として暗躍する最強の悪役だが、最近はスマホゲームに登場したり、マンガの主人公になったりもしている。なぜここまで人気なのか。ホームズ研究家の北原尚彦氏が解説する――。

※本稿は、北原尚彦『初歩からのシャーロック・ホームズ』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

石畳の通り
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頭脳優秀な数学の天才

シャーロック・ホームズの宿敵は誰か、と問われると、あまり詳しくない人だと「アルセーヌ・ルパン?」と答えてしまうかもしれない。だがそれはモーリス・ルブランの生んだキャラクターであり、ルパンのシリーズ中に『ルパン対ホームズ』という単行本があるが故の誤解だろう。

コナン・ドイルの書いたホームズ・シリーズの中に登場するホームズ最大の宿敵と言えば、それはジェイムズ・モリアーティ教授しかいない。

モリアーティ教授は短編「最後の事件」にて登場。ホームズに言わせれば“犯罪界のナポレオン”であり、ロンドンの悪事と迷宮入り事件のほとんどの黒幕である。自らは手を下さず、多数いる手下を駆使する。何らかの悪事を働こうとするものは彼に相談すれば、手はずが整えられて、実行に移すことになるのだ。巣の中心にいるクモのようなものだ、ともホームズは語っている。

表向きは(というか実際に)数学の教授。名門の生まれで立派な教育を受けた、生まれながらにしての驚異的な数学の天才。21歳で二項定理に関する論文を書き、ヨーロッパ中にその名をとどろかせた。英国のある大学で教授のポストを得たが、悪の道へと向かい始め、黒い噂が流れたために大学を辞めざるを得なくなった。ロンドンで陸軍軍人の個人教師になったが、いつしか犯罪界の王となっていたのである。