19世紀末に誕生し、今なお世界中に熱狂的なファンを持つイギリスの探偵小説「シャーロック・ホームズ」シリーズ。小説家/ホームズ研究家の北原尚彦氏が、その色あせない魅力について語る――。(第1回/全3回)
※本稿は、北原尚彦『初歩からのシャーロック・ホームズ』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
シャーロック・ホームズとはそもそも誰か
シャーロック・ホームズという名前こそ有名だが、では彼が何者なのか、正確に知らない人もいるだろう。探偵の代名詞となっているので、探偵だということだけは知っているかもしれないが、ごく少数ながら実在の人物だと思っている人もいるだろう。
シャーロック・ホームズは、英国の作家アーサー・コナン・ドイルが小説の中で生み出したキャラクター、創作上の存在である。1887年発表の長篇『緋色の研究』で初登場し、最終的に長篇4冊、短篇集5冊(短篇56作)が書かれた。
最初に書かれたふたつの長篇『緋色の研究』と『四つの署名』はさほどの話題とならなかったが、〈ストランド・マガジン〉にて一話読みきりの連作短篇形式での連載が始まると、爆発的な大人気となった。この人気は、〈ストランド・マガジン〉の売上を伸ばす役割を、大いに果たしたのである。
独立独歩の私立探偵
ホームズは警察や探偵社には所属しない、独立独歩の私立探偵である。依頼を受けて事件を調査する「諮問探偵(コンサルティング・ディテクティヴ)」だ。住所はロンドンのベイカー街221B。シャーロック・ホームズのファンから、未だにこの住所宛てに手紙が送られてくるという。
ホームズの相棒は、医者のジョン・H・ワトスン博士。ホームズと行動を共にするだけでなく、記録係も務める。児童書などでは「助手」と訳している場合もあるが、対等な「パートナー」であり、日本語にするなら「相棒」である。