世界中の言語に翻訳されて

コナン・ドイルは当初は医者をしながら執筆する兼業作家だったが、〈ストランド・マガジン〉での連載を始めてから専業作家となる。だがほかに書きたいものがあったため、短編「最後の事件」で一旦はホームズのシリーズを終結させた。しかし編集者や読者からの要望はいつまでも続き、結局はホームズを復活させ、最終的にコナン・ドイルはこの世を去る少し前までホームズを書き続けたのである。

ロンドンのベイカー街にあるシャーロック・ホームズ博物館
写真=iStock.com/LiubovTerletska
ロンドンのベイカー街にあるシャーロック・ホームズ博物館

コナン・ドイルの死後もシャーロック・ホームズの人気は衰えず、21世紀まで読み継がれてきた。日本語はもちろん、世界中のさまざまな言語にも翻訳された。ホームズのイメージは、探偵そのもののアイコンとして世の中に流布している。

シャーロック・ホームズは一般に広く知られているのみならず、深くマニアックに愛好し研究する人々をも生んでいる。そんなホームズ愛好家・ホームズ研究家は「シャーロッキアン」と呼ばれる。そして彼らは、コナン・ドイルの書いたホームズのシリーズ60作をキャノン(正典)と呼ぶ。

人気の秘密はキャラクターの魅力

ではその人気の秘密とは何かというと――、シャーロック・ホームズのキャラクターの魅力にあると言っていいだろう。

世界初にして(当時は)唯一の「諮問探偵」。頭脳明晰で推理力に優れている。初めて会った人物でも、その職業や行動などをぴたりと言い当ててしまう。しかし冷血ということはなく、情に厚いところもある。相棒及び記録係は、医者のワトスン博士。

身長は6フィート(約183センチ)と高いが痩せているため、見た目だともっと高い印象がある。髪や眉毛は黒。目はグレイで眼光鋭く、鷲鼻わしばな

化学実験を好み、部屋に器具を備えている。事件の捜査のためだけでなく、あくまで趣味のための実験も行った。

タバコ好きで、紙巻タバコなども吸ったが、特にパイプを愛用している。事件がなく暇になるとコカインの7パーセント溶液を注射して刺激を求めるという悪癖があった(当時は合法だった)。

酒はウィスキーのソーダ割りを好み、部屋にガソジーン(炭酸水製造器)が置いてあった(「ボヘミアの醜聞スキャンダル」「マザリンの宝石」)。「ヴェールの下宿人」では、モンラッシェ(白ワインの一種)を飲んでいる。また「最後の挨拶」では、ワトスンとともにトカイ・ワイン(ハンガリー産で甘くとろみのあるワイン)で祝杯を上げている。