NHKの連続テレビ小説『エール』の第90話で、薬師丸ひろ子さんが演じた約3分間の独唱シーンが話題になっている。ドラマのキリスト教考証をつとめる立教大学の西原廉太教授は、「あのシーンには『死』から『復活』へという、神学的なメッセージが通奏低音のように流れている」と語る――。
空襲で焼け落ちた自宅の跡で、焼け残った賛美歌集を膝の上に置いて「うるわしの白百合」を歌う光子(薬師丸ひろ子)。連続テレビ小説「エール」月~土8:00(NHK総合)
写真提供=NHK
空襲で焼け落ちた自宅の跡で、焼け残った歌集「讃美歌」を膝の上に置いて「うるわしの白百合」を歌う光子(薬師丸ひろ子)。連続テレビ小説『エール』月~土8:00(NHK総合)

薬師丸さんの提案で台本が変わった

2020年10月16日に放映された、NHKの連続テレビ小説『エール』で、薬師丸ひろ子さんが絶唱された賛美歌「うるわしの白百合」は、心が震えるくらいに素晴らしかった。視聴されたみなさんも、感動されたのではないだろうか。私もキリスト教考証者として関わることができたことを、本当に幸いであったと思う。

すでに各種メディアで、脚本も執筆したチーフ演出の吉田照幸監督が語られているように、当初の台本では、薬師丸ひろ子さん演じる光子が、「戦争の、こんちくしょう! こんちくしょう!」と唸りながら地面を叩くシーンであったが、薬師丸さんからは、ここは地面を叩くのではなく、賛美歌の「うるわしの白百合」がその場面に適当ではないかという提案があり、キリスト教考証として私が検証することになった。

「光子」の教派の聖歌集にはなかったが……

私からの応答は以下の通りである。

「薬師丸ひろ子さんの提案は大変素晴らしいアイデアであり、「うるわしの白百合」は、今回の「敗戦」の知らせを聞いた光子のさまざまな思い、ことに「復活」「新たな<いのち>の再生」を願って、また、自身のクリスチャンとしてのアイデンティティーを、何にも規制されることなく<謳う>ことができるその思いを表現するという意味でも、ぜひ、薬師丸ひろ子さんのご提案が実現できることを私も期待する。このようなご提案をされる薬師丸ひろ子さんに、正直、あらためて感激した」
「関内家は聖公会という設定だが、「うるわしの白百合」は聖公会の『聖歌集』にはなく、日本基督教団の『讃美歌』に収録されたものである。しかしながら、ミッションスクールをはじめ、広くキリスト教関係者の間で親しまれた歌なので、光子が愛唱していたとしても不思議ではない。「うるわしの白百合」は現在の『讃美歌』496番(1954年発行)で、その譜の下にある〔509〕という記載は、1931年(昭和6年)版『讃美歌』の「該当讃美歌番号」である」