藤井聡太二冠の師匠としても知られる棋士・杉本昌隆八段。類いまれなる才能をもつ弟子との師弟関係に注目が集まるが、それは自身が師匠・(故)板谷進九段との関係から得たものがベースという。人はいかにして人から学び、自分や相手に眠る才能を伸ばしていくか。将棋の師弟関係から、ビジネスや親子関係を成長させるヒントを探る。

弟子は師匠から学び、師匠も弟子から学ぶ

将棋の世界では、「師匠」になる金銭的メリットは実はありません。将棋教室では月謝をいただきますが、「弟子」はそれを超えた関係なんです。弟子の賞金の一部をもらうなどということもありません。むしろ一緒に食事をすると師匠が払うので、弟子が増えるほど持ち出しが多くなります(笑)。

弟子は師匠から学び、師匠も弟子から学ぶ
写真=時事通信フォト

それではなぜ師弟関係を結ぶのか。

親子、先輩後輩、同業者のような不思議な関係ですが、やはりお互いに学ぶものがあるからだと思います。

私は藤井二冠から将棋を「シンプルに考える」ことを学びました。彼の将棋には“邪念”がないんですよ。経験を積むほど、大人になるほど、ミスを期待して相手が間違えやすそうな手を選んだり、安全を確保しようとしたり、勝てばいい成功すればいいという「結果オーライ型」に陥りやすい。それは大人の知恵ともいえますが、実は回り道で、自分をごまかす考え方ではないかと思います。正攻法で勝ちに挑む藤井二冠を見て、この年にしてまっすぐな気持ちの大事さを感じました。