短距離も長距離も、陸上界にはプロ化の波が来ている

では、東京五輪で活躍が期待される個人種目はどうか。

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写真=iStock.com/tomazl
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マラソン競技では昨年、設楽悠太(ホンダ)と大迫傑(ナイキ)が日本記録を樹立して、実業団連盟などが設立したマラソン強化特別プロジェクトの褒賞金1億円を獲得している。たった1レースで1億円、ラクして稼げるというイメージを持つ人もいるだろうが、褒賞金は一時的なもので、レアケースといっていい。

この褒賞金を除けば、陸上界で年間1億円以上を稼いだのは、オリンピックの女子マラソンでメダルを獲得して、国民的ヒロインになった有森裕子と高橋尚子ぐらいだろう。

ただし、近年は日本陸上界にもプロ化の波が来ている。大迫傑、川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)、桐生祥秀、ケンブリッジ飛鳥(ナイキ)など知名度のあるアスリートは所属会社だけでなく、その他の企業ともスポンサーやCM契約を結んでおり、数千万円を稼いでいると予想する。またマラソンの場合はレースの出場料や賞金も大きい。

一方、陸上の実業団選手の場合は、ラグビーやバレーと一緒で、社員としての給料になるため、現役選手として活躍する20代、30代の年収はさほど高くはない。ただし、引退後も企業に残れるという安心感がある。

陸上の場合、かつては、企業が社員として迎えるのは駅伝要員の長距離が大半だった。そのため、長距離以外の短距離や跳躍競技などの選手は大学卒業後、大学院に進んだり地域のアスリートクラブに所属したりして競技を続けるパターンが少なくなかった。

近年は東京五輪という“追い風”があり、企業もアスリートに注目。陸上部のない企業と契約しているセミプロのような選手が増えている。しかし、その大半は300万~400万円ほどの少額の契約だ。そして、その多くは東京五輪の日本代表がつかめなかった時点で、打ち切られる可能性が少なくない。

東京五輪後は、日本のスポーツ界は“金回り”が冷え込む

また注目度の高いアーティスティックスイミング(旧シンクロナイズドスイミング)や新体操などは海外合宿が多く、個々と契約してくれるような会社も少ない。日本代表クラスとなるほどの実力を備えていても家族の経済的支援がないとやっていくのは難しいようだ。オリンピックでメダルが期待される選手でも収入面で恵まれているわけではないのだ。

しかもコロナ禍で経営が苦しくなっている企業が多い。東京五輪が終われば、日本のスポーツ界は“金回り”が冷え込むことが予想される。

東京五輪はJOCと各競技団体がメダル獲得者への報奨金を用意している。

JOCは金500万円、銀200万円、銅100万円。各競技団体では差があり、陸上は金2000万円、銀1000万円、銅800万円(リレー種目は個人種目の半額を個々に贈る)。卓球はシングルス金1000万、銀500万円、銅300万円。テニスは金800万円、銀400万円、銅200万円(ダブルスは2選手で等分)。空手は金1000万円、銀500万円、銅300万。

大量のメダルが期待される水泳や柔道は報奨金が用意されていない。

なお、2016年のリオ五輪で日本は41個のメダル(金12、銀8、銅21)を獲得している。皆さんは、4年前の歓喜をどれだけ覚えているだろうか。夢のメダリストになれたとしても、いつまでも注目を浴びていられるわけではないのだ。

一方でメダルに届かなくても、美貌やキャラクターを生かして、スポーツタレントやキャスターとして活躍している元選手もいる。シンクロの青木愛は北京五輪でチーム5位、新体操の畠山愛理はロンドン五輪で団体7位、リオ五輪で団体8位だった。

ほんの一部の選手と元選手を除けば、オリンピアンたちは世間が思っているほど、華やかな生活を送っているわけではない。総じて言えば、セカンドキャリアを含めて、日本のスポーツ選手は金銭的に恵まれているとはいえない。それだけに今回の瀬戸の失態を残念に思う人は少なくないに違いない(文中敬称略)。

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