長距離選手が軒並み好記録を出すナイキの厚底シューズの「規制」で、日本の陸上界が揺れている。世界陸連が今年12月1日から800m以上のトラック種目で使用を禁じたため、日本で盛んな1万mレースでの影響が大きいのだ。スポーツライターの酒井政人氏は「日本では1万mが駅伝選手を選考する基準になっている。だが、これだけ1万mが盛んなのは日本ぐらいだ」という——。
ナイキ「エア ズーム アルファフライ ネクスト%」
写真提供=ナイキ
ナイキ「エア ズーム アルファフライ ネクスト%」

ナイキ厚底シューズを信奉するランナーが日本に圧倒的に多いワケ

新型コロナウイルスの影響で、日本陸上界はシーズン開始が大きく遅れた。有力選手が出場した大会でいうと中長距離種目のみで行われる7月の「ホクレン・ディスタンスチャレンジ2020」(計4日間)が“スタート”になった。

シーズン序盤にもかかわらず、同大会は好タイムが続出。多くの選手の足元にはナイキ厚底シューズが輝いていた。

同チャレンジ千歳大会(7月18日)の男子5000mでは石田洸介(東農大二)が高校記録を16年ぶりに塗り替える13分36秒89をマーク。この石田もナイキ厚底シューズ(エア ズーム アルファフライ ネクスト%)を着用していた。従来の記録は、16年も前に佐藤秀和(仙台育英)が出した13分39秒87(2004年)でミズノのスパイクを履いて出した記録になる。

石田は3000mの中学記録を持つ選手。高校記録を狙える逸材だと注目されていたが、他の“厚底ランナー”も快走しており、同大会でもナイキ厚底の威力がいかんなく発揮されるかたちになった。

2017年夏に初めて一般発売されたナイキ厚底シューズ(当時はズーム ヴェイパーフライ 4%)は、世界のマラソンシーンを激変させる走りを引き出してきた。日本では駅伝やトラックでも信じられないタイムを残している。

2020年1月の箱根駅伝のナイキ厚底シューズ使用率84.3%

例えば、学生ランナーの1万mだ。例年、11月後半の1万m記録挑戦競技会に箱根駅伝出場校が大挙して出場している。

学生トップクラスの証しといえる28分台は、ナイキ厚底シューズが登場する前の2016年大会は16人がマークした。それが厚底登場後の2019年大会では30人と倍増。さらに同年11月30日の日体大長距離競技会1万mでも33人の学生ランナーが28分台で走破するなど、28分台の価値が急降下するくらいの状況になっているのだ。

なお2020年1月の箱根駅伝ではナイキ厚底シューズの使用率が84.3%まで増加。昨年末の1万m28分台の大半は同シューズがもたらしたものだった。

今年の箱根駅伝で大活躍したナイキ厚底シューズを履いた選手は、筆者の取材に対して、1万m28分台が爆増したことに、「厚底参考記録ですよ」と話していた。それくらいトラックのタイムも変わってくるようだ。