就職活動で面接を無断でキャンセルする応募者がいる。なぜ彼らは音信不通になるのか。産業カウンセラーの渡部卓氏は「断るために必要な『電話』というツールが大きなハードルになっている」という――。

※本稿は、渡部卓『あなたの職場の繊細くんと残念な上司』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。

仕事のために面接をする女性
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「顧客の前では笑顔でいろ」は若者には通用しない

先日、ある中小企業の部長が私にボヤいていました。

「いまどきの新人は、来社した顧客に対して笑顔がないんですよ。さすがによくないと思ってやんわりと注意したら、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で『面白くもないのに笑えません』なんてボソッとつぶやかれて、あぜんとしました」

ボソッとつぶやいたとはいえ「面白くもないのに笑えません」と反論してしまうこの“新人”の態度は改めなければなりません。ただ多くの学生と接している私からすれば、彼は決してムッツリしていたわけではないと思います。でも、社会通念上で要求されるレベルの笑顔にはほど遠かったようです。

原因は、彼が育ってきた環境にもあるでしょう。喜怒哀楽を表出させる場面が極端に少なくなっているからです。私らの子どもの頃は、学校から帰宅したら外に出て遊んだり、行動範囲が広く、他人と接する機会も多かったものです。

ところが、いまの時代は帰宅後は塾で忙しいし、家にいれば1人で過ごすツールも充実しているため、あまり外に出なくても楽しいことがいくらでもあります。1人で楽しめるので、家族とのコミュニケーションの絶対量も少ない。兄弟姉妹がいない子も多く、あまり喧嘩もしない。つまり、表情が豊かになるような体験、経験、失敗の絶対量が減ってきているのです。

それなのに、職場が以前の価値観、経験則に基づいて、社員を枠にはめたりマネジメントしたりすれば、ミスマッチが起こるのは当然でしょう。先の「お客様の前では笑顔でいろ」はその典型です。我々の世代にとって当たり前のことでも、同じ文化を経ていない彼らには簡単にはできないのです(しなくていい、ということではありませんが)。