なぜ定時になったら、黙って「お先に失礼する」のか

似たケースに、定時で仕事が終わった新人が、まだ残っている上司や先輩に「何かやることありますか」と訊く慣例があります。20~30年前の職場なら当たり前の光景でした。

意訳するなら「今日はこのまま帰ってよろしいですか」と許可を求めているわけです。

上司や先輩より先に帰る場合には、必ずひと言かけろ、がビジネスマナーだと言われてきました。自分の担当分が終わっても、それ以上の仕事をしてこそ認められると教えらました。ビジネスとは、相手の期待に応えているだけではダメで、期待値を上回る成果を見せて初めて評価される。そんな教育を受けてきました。

いまでは違います。新人は“声がけ”などなくサッサと帰っています。そうすると「なぜ若い社員は残業を嫌がるのか」と中高年世代は言いがちです。でも、この「なぜ」という疑問自体がおかしいと考える必要があるのです。

この不安定な世の中では、会社に尽くしても必ずしも報われるわけではありません。だから、若い人が言われたことしかやらないのは、気が利かないわけでも、やる気に欠けるからでもない(本当に気が利かなかったり、やる気に欠けている若手社員もいるでしょうが)。指示された以上の仕事をしても、自分のためになるという意識を持てないのです。

学生たちのレポートも、教員である私の期待を超えて驚かせてやろうという意識はあまり見られません。指示された範囲の中で、自分なりに頑張る学生がほとんどです。自分なりには頑張っています。我々から見ると頑張ってないように見えても、本人は一生懸命にやっています。

先の「笑顔がない」と言われた新人も、本人的には柔らかい表情を見せていたんだと推察します。でも、それ以上の水準を要求されても難しいのです。

採用面接を無断欠席する理由は「電話へのストレス」

冒頭で、企業の採用面接を無断でドタキャンする応募者がいる話をしました。ここでは、その一つの大きな理由について説明したいと思います。

じつは、彼らが音信不通になるのは、断るために必要な「電話」というツールが大きなハードルになっているのです。一次面接までのコミュニケーションは、メールのやりとりで行われているはずです。生の相手と対峙する一次面接が初めての“リアル”と言えるでしょう。それまで何度か電話でやりとりしているのならともかく、最後の申し込みもメールで受け付けられている。そこから、直前の面接のキャンセルというNOを電話で伝えるのは、いまの就活生(転活生)には、それがマナーと知りつつ、相当ハードルが高く感じるでしょう。

NOと言うことにも、電話にも慣れていません。中高年の世代は電話で会話することは何でもない行為です。メールよりストレスがないくらいかもしれません。しかし、若い世代にとっては、学生時代までの自分が経験してきたコミュニケーションとは別ものなので、電話は不安でストレスなのです。