今年3月の講演で、FSA(英金融サービス機構)ターナー長官は「バブルを防ぐため、英経済の様々な部分への与信を制限するべき」と語った。このように個別の銀行ではなく、金融システム全体の安定を目的とする政策の観点をマクロ・プルーデンスと呼ぶ。
そもそもプルーデンス(信用秩序維持)政策とは、金融システムの安定性を確保するための政策の一つだ。従来は個別の金融機関、特に銀行のリスクを監視するミクロ・プルーデンスの視点が中心だった。自己資本の充実を求めるBIS規制がその一例だ。
しかし、景気が悪化したとき、自己資本比率を維持するため、多くの銀行は分子の自己資本を増やさず分母の資産を売却しようとする。この一斉行動が景気に悪影響を及ぼしたのは周知の事実だ。マクロ・プルーデンス政策では、景気のよいときに自己資本を厚めに持つことを促し、景気が悪化しても金融システムに悪影響が出ないようにする。また銀行だけでなく、投資銀行や保険会社など、重要な金融機関も監督の対象として含めることが議論されている。
マクロ・プルーデンスを実現するための監視機関として、米国ではFRB(連邦準備制度理事会)の役割が重要視され、EU(欧州連合)ではマクロ・プルーデンスの監督協議会をつくろうとする動きもある。日本総合研究所調査部理事の翁百合氏は「金融政策や規制・監督政策をどのように組み合わせるかということも重要な検討課題となっている」と指摘する。金融政策は各国の思惑が絡むだけに、道のりは険しい。