今年4月、長妻厚生労働相は特別養護老人ホーム(特養)の居室の最低面積基準を引き下げる方針を明らかにした。特養の定員を増加させ、「待機老人」を減らすのが狙いだ。

「待機老人」とは、特養に入居を希望しながら入れない待機者を指す。保育園に入れない子供を「待機児童」と呼ぶが、待機児童4.6万人に対し、待機老人は現在42万人にも上り、増加の一途をたどっている。

特養が入居困難になっている理由は2つある。一つは値段の安さ、もう一つは参入規制の高さだ。

特養は社会福祉法人と自治体のみに設立が許可されている。他の民間施設に比べて入居費や自己負担が軽いため、希望者が集中してしまう。自由競争なら価格が上がるわけだが、経営母体の関係上そうはならず、結果的に待機老人が増え続けているのである。

今回の政策で待機老人を減らせるのか。学習院大学経済学部教授の鈴木亘氏は「大きな効果はない」という。

同政策では空き施設や公営住宅の利用を示唆しているが、特養を新築する場合に出る多額の補助金が出なくなる。また、居室面積が小さくなるため、運営側の収入となる居住費が減ってしまう。いずれにしても運営側にしてみればデメリットだ。一方、自治体にとっては、開設時のコストが下がるメリットはあるが、つくりすぎれば入居者が増え、結果的には介護費用が増えてしまうため、積極的には動けない。

「供給量を増やしたいのなら、株式会社やNPO等、様々な法人が運営できるように規制緩和が必要」(鈴木氏)。待機老人解消への道のりは遠い。