「人権」を盾に中国共産党は批判を回避する
皮肉と言うべきか、オーストラリアでの浸透をもくろむ中国にとって最も大きな武器が「人権」である。オーストラリアにおける中国(共産党)の脅威を指摘すると、当の中国人だけではなく心あるオーストラリア人からも「中国人に対する人種差別主義者(レイシスト)、あるいは外国人恐怖症(ゼノフォビア)だ」とレッテルを貼られるのだという。中国よりもはるかに人権意識の進んでいるオーストラリアが、人権を武器に中国共産党批判を封じられかねない状況にあるのだ。
近年、経済的に世界第2位の規模にまで成長した中国は、国際機構への参画や国際貢献を積極的に行ってきた。それを「中国のリベラル化」と見る向きもあるが、おそらくそれは間違いだろう。むしろ、中国にとって都合のいい隠れみのとして機能している。例えば中国は後進国への援助や資金の貸し付けを行っているが、これ自体、もちろん善意などではなく、すべては中国共産党体制を強化するために行われていることだ。もちろんどの国も自国の利益のために国際貢献や途上国支援等を行ってはいるだろうが、中国の手法はえげつない。
ハミルトン教授も指摘しているように、スリランカでは、政府がハンバントタ港を中国企業へ売却すると決めたことに対し、現地住民から反対の声が上がった。現地の政治家も「中国の植民地になりたくない」と反発したが、スリランカ政府は中国から借りた負債を返済するために、売却せざるを得なかったのである。
天安門事件と同じ過ちを犯してはいけない
先進国とは経済的な依存度を高め「中国市場なくして自国の成長はない」と思わせ、依存が進むことに対する警戒論を「差別だ」と言って封じる。後進国に対しては巨大な負債を負わせて「債務の罠」に陥れ、結果的には自国のリソースを乗っ取る。そして一方で「欧米・白人は中国人を差別している」と人権を武器に使いながら、国内ではウイグル人やチベット人に圧政を強いて、香港から自由を奪おうとしている。
日本は中国非難の4カ国の声明には加わってはいないが、「深い憂慮」を表明したうえで、中国大使に申し入れを行ったという(6月8日、菅義偉官房長官会見)。だがこれで十分とはいいがたい。
31年前の天安門事件では、各国が中国に背を向ける中、日本はいち早く中国に手を差し伸べて天皇訪中を実現し、中国を助ける格好となった。隣国関係は重要だが、このことは当時「西側諸国(自由民主主義陣営)で最も弱い国」であった日本が狙い撃ちされた結果でもある。
『目に見えぬ侵略』にあるようにオーストラリアは相当、中国に傾斜したが、コロナ対応と香港デモを機にわれに返るかもしれない。6月4日には豪印の両首脳が防衛協力拡大で合意してもいる。日本はどうか。現在、今年予定されていた習近平の国賓来日は延期となっているが、中止すべきではないか。天安門事件と同じ過ちを繰り返してはならない。