米同盟関係の解体における中国の標的は豪と日本

オーストラリアにおける中国共産党、中国当局の「浸透」を余すところなく描き出したオーストラリアの学者・クライブ・ハミルトンの『サイレントインベーション』という本がある。当初出版を契約していた出版社が中国からの報復を恐れて契約を解消、その後2つの出版社から刊行を断られ、2018年2月にようやく日の目を見た本書は、日本でも少し前から話題となっており、このほど待望の邦訳『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画』(飛鳥新社)が刊行された。

いかに中国が人とカネを動かしてオーストラリアの政財界に食い込み、オーストラリア社会・政治・経済を中国の都合のいいように動かしているかを丹念に追ったハミルトン教授は、その中国の目的について「日本語版へのまえがき」で次のように断言している。

「北京の世界戦略における第1の狙いは、アメリカの持つ同盟関係の解体である。その意味において、日本とオーストラリアは、インド太平洋地域における最高のターゲットとなる」

先の中国非難声明へのオーストラリアの参加は、まだオーストラリアに中国に対する抵抗が残っている(あるいは抵抗を取り戻した)ことを示している。そのため、一部の人は「胸をなでおろした」というわけだ。

2004年、豪はターゲットに定められた

ハミルトン教授によれば、中国がオーストラリアをターゲットと定めたのは2004年8月半ば、胡錦涛政権下の中国で「オーストラリアを中国の『周辺地域』に組み込むべきである」という決定がなされ、以降、豪中は経済的につながりを深め、最終的には米豪同盟にくさびを打ち込む目的を達成すべきだとされたという。この情報をもたらしたのは元在シドニー中国領事館の政務一等書記官の陳用林で、2005年にオーストラリアに政治亡命した人物である。

こうした目的を達成するために中国がどのような手法を用い、どの程度オーストラリア社会に食い込んでいるかをハミルトン教授は丹念に調べ上げているが、「カネは政治におけるミルク」と言ってはばからない中国人経営者や、強力なロビー活動、豪中の歴史的なゆかりや留学生までもが、そうした中国の目的を達成するための「先兵」となっているというのである。