年収が増えるほど、本当に幸せになれるのだろうか。慶應義塾大学大学院の前野隆司教授は「以前協力した調査の結果では、『年収1000万円でも不幸な人』は、『もっとお金が欲しい』という不満をもち、信頼できる仲間も少なかった。そこそこの年収を得ているのに、文句ばかり言っているのは、みずから不幸を選んでいるようなものだ」という——。

※本稿は、前野隆司『年収が増えるほど、幸せになれますか? お金と幸せの話』(河出書房新社)の一部を再編集したのものです。

山積みのコインの上に立つ人と、平置きのコインに立つ人(ミニチュア)
写真=iStock.com/hyejin kang
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「年収400万円で幸せな人」と「年収1000万円で不幸な人」の差

ある経営者がこんなことを言っていました。「サラリーマンはすごいビジネスモデルだ」と。原始時代は、狩猟や採集などの仕事を自分でしなければ、飢え死にしていました。誰もが自立心を持って、自分の責任で生きていました。

しかしサラリーマンは、黙って言われたことだけをしていても毎月、安定的にお金が入ってきます。人類の歴史から見ても、たしかにすごいビジネスモデルです。にもかかわらず、「なんでこんなに給料が低いんだ」「自分は貧乏で不幸だ」と愚痴を言っている人をよく見かけます。甘やかされた結果、幸せを感じる力が鈍っているのではないでしょうか。

もちろん、奴隷のような労働を強いるブラック企業は論外です。非正規雇用の貧困問題も、一刻も早く解決すべきでしょう。しかし、そこそこの年収を得ているのに、文句ばかり言っているのは、みずから不幸を選んでいるようなものです。

私は以前、「年収400万円でも幸せな人」と「年収1000万円でも不幸な人」の比較調査に協力したことがあります。結果は歴然としていました。年収1000万円でも不幸な人は、「お金が足りない」「もっとお金が欲しい」とばかり思っていました。信頼できる仲間も少ない傾向がありました。

一方、年収400万円でも幸せな人は、「これだけもらえてありがたい」「今の生活に感謝している」と思っていました。仲間が多く、感謝にあふれていました。