現在、経営者として成功している人は、井上さんのように、年収3分の1どころか、想像を絶する貧困を経験しているケースが目立ちます。貧しい中、「これをやり切るんだ」という思いで努力していたら、結果的にお金もついてきたのです。

感謝すること、やりがいを持つこと、そして利他の精神で生きること。この3つを持っていれば、もしも年収が3分の1になったとしても幸せでいられるのです。

老後に2000万円ないと幸せになれないのか?

金融庁が発表した、「老後資金は2000万円必要」とする報告書が賛否を呼びました。しかし、本当に2000万円も必要なのでしょうか。2000万円ないと、幸せになれないのでしょうか。

まず、2000万円という数字が一人歩きしていることに疑問を感じます。平均値は2000万円なのかもしれませんが、一部のお金持ちが平均値を押し上げているので、実際はもっと少なくてかまわない可能性があります。

お金持ちに必要な老後資金と、私たち庶民に必要な老後資金は違います。都会で必要な老後資金と、地方で必要な老後資金も違います。自分はいくら必要なのか、自分の頭で考えることが大切です。くれぐれも2000万円という数字に振り回されないようにすべきだと思います。

それに、老後の備えとして大切なのはお金だけではありません。お金以上に大切なものがあります。それは人間関係です。人との関係をちゃんとつくっておくことのほうが、お金を貯めることよりも大切だと思います。

専門的な言葉でいえば、金融資本を増やすことよりも、社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)を増やすことに目を向けるべきなのです。

一人で生きていこうとすればお金はいくらあっても足りない

社会関係資本が充実している国として知られているのが、「世界一幸せな国」とも呼ばれるブータンです。ブータンの平均年収は、約20万円です。決して経済的に恵まれているわけではありません。

しかしブータンの人には、困ったときに助けてくれる人が50人いると言われています。誰かが病気になったら、少しずつお金を出し合う。ケガをして歩けなくなった人がいたら、みんなで世話をする。50人で助け合っていれば、そこまでお金を貯めなくてもやっていけるのです。

保険と同じ考え方です。2000万円持っている孤立した人より、200万円ずつ持っている50人が、1億円の原資をもとにして助け合ったほうが、いざというとき安心です。実際、昔の日本には、これと同じような仕組みの「講」というものがありました。また、助け合いの精神がありました。

逆にいうと、助け合う気持ちがなければ、もしかしたら2000万円あっても足りないかもしれません。老人ホームに入るお金、病気になったときの治療費、身体が動かなくなったときの介護費、家事のアウトソーシング。誰にも頼らず、一人で生きていこうと思ったら、お金はいくらあっても足りません。