「私、バイトやる。料理もやる。お弁当は自分やお父さんの分も作る」

そこで、まずはKさん宅の収支状況を確認しました。収入には波がありますが、売り上げから、店の家賃や人件費、光熱水費などの経費や、Kさんの国民年金保険料や健康保険料を引いた金額を生活費として家庭に入れているそうです。その額は月平均約31万円。今は、「この額が精いっぱいです」と話します。

対して、支出はどうでしょうか。目立った無駄遣いはありませんが、節約できそうな支出がいくつかあります。それは、食費、通信費、生命保険料の3点でした。

まず、食費です。父娘2人で月5万6000円ですから、さほど多くはありません。ただ、自炊率は低いようです。飲食店で調理もするKさんですが、1日働いて疲れて自宅に戻ってまで料理をしたくないと感じることも多く、また店では食材の余り物が出ることも案外少なく、結果的に近くのスーパーの総菜頼りになってしまうそうです。それを夜ごはんのおかずにし、翌日、娘に持たせるお弁当にも詰めています。

曲げわっぱに入ったお弁当
写真=iStock.com/yumehana
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一方、月2万3000円の支出となっている通信費の大部分はスマートフォンの利用料です。Kさんは娘との連絡もよくしますし、店と取引のある業者とのやりとりも多いです。そのため以前から大手キャリアのスマホを当たり前のように使い、機種変更はほとんど考えたことがなかったそうです。

自分の家のおおよその支出事情を知った娘がここで口をはさみました。

「お父さんはいつも自分だけで何とかしようとするけれど、もっと私に任せてよ。料理もできるし、バイトもやるから。お弁当も自分で作る。お父さんの分も必要なら、作る。あとね、スマホも友達とかは格安モバイルで契約している人もけっこう多いし、私もそれでいいよ。もう高2なんだから、子供じゃないよ、私は」

いつも自分のために身を粉にして働いてくれている父親にいつまでも甘えていてはいけない。そんな自覚が感じられる娘の発言に、Kさんは目を丸くしました。

父親は、父子家庭だからと娘が後ろ指をさされないように、店だけでなく家のこともすべて一人で抱え込んでいると娘は感じていたのです。以前、娘が大学生になったら奨学金を利用し、アルバイトもして父親の負担を減らしたいと、父に話すと「何を言っているんだ、お前は勉強を頑張ればいい」というだけだったそうです。

わが子の教育費優先で老後資金ができないと、結局、子供の世話になる

ここで、Kさんが利用することに消極的な奨学金について、Kさん親子にその仕組みを説明しました。奨学金は子供が初めて背負う、れっきとした借金(貸与型の場合)ですが、卒業後の返還額がどの程度になるかをシミュレーションし、無理のない範囲で計画的に使うのであれば、学業継続の強い味方になります。自分は奨学金をいただいているという気持ちが常にあれば「1回1回の授業を無駄にできない」という思いにもつながり、よい作用をもたらすこともあります。

Kさんのように自営業者で将来もらえる年金額が会社員より少なく、老後資金があまりない人でも、「子供のために」と無理をして教育費を負担しようとするケースは少なくありません。でも、そうすると自分のための蓄えができず、結果的に老後資金不足となり、将来的に子供に頼らざるをえない状況になってしまうことがあります。Kさんも、自分の老後のことは「何とかなる」と高をくくっていたようでした。

子供のためによかれと思ってやったはずなのに、迷惑をかける結果になってしまう場合があるのです。そういう事態を回避するためにも、返済可能な範囲で奨学金を賢く利用することが大切なのです。