安倍政権は、この専門家会議に、国家としての獲得目標の設定と進むべき方向性の判断を丸投げしてしまったことで自粛の出口が見えなくなってしまった。

これに対し、吉村知事は「医療崩壊を阻止する」ことを獲得目標に掲げた。そして医療崩壊が生じない範囲であれば、社会経済活動を一定認め、医療崩壊が生じない範囲で感染者が一定発生することや場合によっては死者が出ることも容認した。これがまさに政治的な総合判断というものだ。その上で、数値化、見える化にもこだわった。

ここで医療崩壊を阻止する目標と、数値化・見える化の目標はまったく矛盾しない。

吉村知事は、専門家会議に「医療崩壊を阻止することのできる数値基準を設定して欲しい」と方向性を示したのである。

きわめてシンプルな獲得目標と方向性であるが、一定の感染者数、死亡者数をも容認したという点では、きわめてシビアな判断を伴うものであった。

吉村知事の命を受けた専門家たちは「可能な限り感染者数を0に、死亡者数を0にすることまではしなくてもいい」という免罪符を得た上で、自分たちが専門知を振り絞るべき目標が明確になったのである。

「医療崩壊が生じない数値基準」

こうなれば専門家たちは水を得た魚である。大阪府の専門家会議や担当職員は、脳みそをフル回転させた。

自粛を段階的に解除していい数値基準と、再び自粛モードに転換しなければならない数値基準。医療崩壊が生じる・生じない数値基準とは何か。この点に絞って専門家たちはとことん議論した。

そして出てきたのが、「大阪モデル」という数値基準である。

(略)

安倍政権は日本の「獲得目標」と方向性をズバリと示せ

橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)
橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)

他方、安倍政権が専門家会議に方向性を示した気配はない。ゆえに専門家会議は、自分たちが思う、感染症対策の最高水準を追求している。そしてこれまで、政府は専門家会議の決定を政府の決定にしてきた。

つまり、総合的な政治判断がないのである。

政府は、人との接触を8割減らすという目標を出しているが、それはいったい何を目指しているのか。人との接触を8割減らすこと自体が目標なのか、いやそうじゃないはずだ。8割減は手段のはずだ。とにかく、ゴールが見えない。

感染者数はどこまで少なくしなければならないのか。実効再生産数(1人の感染者から何人に感染させるか)は? 陽性率(検査人数から何人陽性者が出たか)は? 病床利用率は? 死亡者数は? いったいどのような数字がどうなれば自粛が解かれるのか、そして再び自粛となるのかがまったく分からないのである。

(略)

日本の獲得目標は何か。二兎も三兎も四兎も追ってはならない。安倍政権は、まずそれをズバッと示すことが必要だ。

(略)

(ここまでリード文を除き約2800字、メールマガジン全文は約9000字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.199(5月12日配信)の本論を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【政界・新リーダー論(2)】吉村知事が打ち出した「大阪モデル」誕生の秘密》特集です。

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