東京電力による「計画停電」が、日本産業の生産活動を痛撃している。その右代表が大手半導体メーカーのルネサスエレクトロニクスだ。同社は2010年4月に、日立・三菱電機系のルネサステクノロジとNECエレクトロニクスの合併で誕生。自動車や電子機器を制御するマイコンやシステムLSIに強い。震災直後は8工場が停止し、今でも3工場で停止状態が続く。

震災の直接的な被害が大きかったのが、最先端の生産設備を保有する那珂工場(茨城県)。さらに高崎工場(群馬県)、甲府工場(山梨県)は、計画停電の影響で生産を再開できていない。後述する「前工程」の生産能力の実に4割が失われている。

なぜ停電が死活問題となるのか。半導体の製造工程は大きく「前工程」と「後工程」に分かれる。前工程では、シリコン基板(ウエハ)に薄い膜を貼り(蒸着させ)、そこに回路を焼き付けて集積回路をつくり込む。この膜を蒸着させる過程は化学反応なので、途中で停電になれば、すべてがおしゃかになる。しかも反応過程は3時間以上かかるため、組み立てラインのように、「3時間だけ止めましょう」というわけにはいかないのである。また前工程では薄膜の形成などで不純物を取り除くため、超真空状態を要する過程が多い。真空ポンプで超真空状態をつくり出すには24時間かかる。途中で停電になれば超真空状態がつくれず生産ができない。

半導体業界が「電気使用量の総量規制は構わないので、常時通電してくれ」と要望する背景には、こうした事情がある。

半導体のもう一つの主戦場であるメモリでは、日本は韓国メーカーに抜き去られた。国内勢がまだ強みを有するマイコン分野も、今回の震災・計画停電で衰退の道を歩むのか。それは生産停止の期間による。なぜなら、マイコンはただのハードにすぎないからだ。これにプログラム(ソフトウエア)が載せられて初めて、制御などの機能を果たす。ソフト開発が絡むからこそ、自動車メーカーなどと強く結びついている。

専門家によれば、互いを合わせると3カ月分程度の在庫はあるという。この期間に生産を正常化させることができるのか。日本のマイコンの命運は、半導体メーカー自身にもまして、東電が握っている。

※すべて雑誌掲載時