福島第一原子力発電所での事故発生後、記者会見に臨んだ東電の清水正孝社長は会見中にも、瞑目したまま。これは東電の置かれた立場の深刻さを象徴する。
11日の事故発生後、東電の株価は2100円から700円に急落。今回の事故は、「安定した状況まで最低でも3カ月はかかる」(経済産業省幹部)。
英国の「フィナンシャル・タイムズ」(3月25日付)は三井住友銀行など数行からの2兆円の緊急融資を例に挙げ、「それでも東電は存続する」の記事を掲載したが、疑問の声もある。
こうした状況を受け、現実味を増しているのが東電の「分割論」「国有化論」で、その鍵を握るのは、巨額な賠償金問題だ。
東電をはじめ、原子力発電所を運営する事業者(電力会社)には「原子力損害の賠償に関する法律」で、賠償義務が課せられるが、免責事項も記されている。今回、賠償の対象となれば、政府から東電には一発電所あたり1200億円の賠償金が補填され、汚染除去、廃炉にも準備金5100億円が充てられる。
今回の大震災はマグニチュード9.0、15メートルを超える津波など“想定外”の災害とはいえ、初動時の判断、海水注入が遅れた点など、「人災」と指摘されても仕方がない。言質を取らせぬために、清水社長を会見に出席させなくなったとの声もある。
10年3月期で9880億円ものキャッシュフローを生む東電だが、人災と認定された場合、賠償額は数兆円にも及ぶ。また、行政と一体で推進してきた原子力事業の根本的な見直しは必至。一企業で収まる話ではない。
すでに経産省、永田町の一部から、東電を原子力部門と非原子力部門に分割し、非原子力部門と東京ガスとの合併を模索する「分割論」も出ている。それだけではない。フランスが国策会社アレバで原子力を運営するように、東電を国有化して賠償責任問題に対処する流れが有力で、政府による東電への公的資金を導入する案も出てきた。
東電の分割化、国有化が引き金となり、国家主導の電力、ガスを含んだエネルギー再編が始まる。東電以外の電力会社、ガス会社もその対象となる。エネルギー政策を一企業に任せてきた歪みの是正が、今回の多大な犠牲に報いる答えだろう。